本記事は2023年秋の無料セミナーの内容をコラムに編集したものになります。
本コラムでは2023年度に行われました無料セミナー「リステリア~国内外の現状と検査の必要性~」の内容に沿って近年食品業界での注目度が伸びてきているリステリアに関して国内外の現状と検査の必要性について解説致します。
1.リステリア属菌の基礎知識
リステリア属菌はグラム陽性の通性嫌気性で芽胞を形成しない桿菌です。種類は多数見つかっていますが、その中で人への病原性を示すのはリステリア・モノサイトゲネス(以後、リステリア)のみとなっています。
リステリア属菌は低温や酸性条件、濃い塩分濃度などあらゆる環境で生育可能であり、バイオフィルムを形成することから食品業界における微生物汚染の原因の一つとなっています。
(1)リステリア食中毒事例
日本におけるリステリア食中毒はいずれも散発事例ではありますが、食品安全委員会の評価書によると年間の推定患者数は200人と算出されています。
食品中のリステリア・モノサイトゲネス
https://www.fsc.go.jp/fsciis/evaluationDocument/show/kya20120116331
(2)国内における食中毒発生事例
国内において食品媒介による食中毒事例は2001年に起こったナチュラルチーズが原因食材の1件のみとなっています。本事例で死者は出ておらず、チーズの加工途中における汚染が発生の原因と推測されています。
(3)国外における食中毒発生事例
一方、海外では毎年のように数百人を超える大規模な集団食中毒事例が報告されており多数の死者が出ています。また、コールスローやメロン、ソーセージなど様々な種類の食品が原因食材となっています。
(4)国内外におけるリステリア汚染状況の比較
海外ではリステリアによる大規模な食中毒事件が後を絶ちません。それに比べ日本では散発事例はあるものの大規模な感染は起こっておりません。そのためリステリア食中毒に対する世間の認識と理解度は低くなっていますが、過去の調査から国内の食品中におけるリステリア汚染状況は欧米と同程度という結果が得られています。
(5)原因となる食材
原因食材にはナチュラルチーズなどの乳製品、ネギトロなどの魚介類加工品、生ハムなどの食肉加工品、コールスローなどのサラダ類が挙げられます。これらはRTE食品と呼ばれ加熱や調理なしでそのまま食べられる手軽さから消費量は年々増加しています。
2.リステリア感染症について
リステリア感染症は軽症の場合は無症状またはインフルエンザに似た症状が見られます。しかし、重症化した場合は敗血症や髄膜炎を引き起こし、特に妊婦に感染した場合、流産や死産の原因となります。
3.リステリア検査の必要性
日本は今後、海外との貿易拡大やRTE食品の需要増加、高齢化の加速によりリステリア感染症へのリスクが増加することが予想されます。そのため、消費者意識の向上や国際的な整合性の観点から、食品製造時のリステリア管理における検査の必要性は今後高くなっていくと考えられます。
(1)リステリア検査(国内の基準)
現在の日本におけるリステリアの規格基準は非加熱食肉製品およびナチュラルチーズ(ソフトおよびセミハードタイプに限る)を対象として、基準値は100cfu/g以下と設定されています。
(2)リステリア検査(国外の基準)
アメリカでは全ての調理済み食品を対象として、25g中リステリアが不検出であることが規格基準となっています。一方、EUでは増殖の可能性の「ある」RTE食品では25g中不検出、「ない」RTE食品では100cfu/g以下が基準となっています。加えてリスクが高い人々に対する食品に関しては全食品で25g中不検出が基準となっています。
4.リステリア検査環境モニタリングの必要性
リステリアはバイオフィルムを形成するため、環境中から食材に付着し汚染される交差汚染が発生するリスクがあります。そのため、リステリア対策では食品の管理のみならず、製造加工環境からの汚染を防止するような環境モニタリングが重要となっています。
リステリア・環境モニタリングに対する海外での取り組み
特に欧米諸国ではリステリアは積極的にモニタリングされている病原微生物であるため、食品製造時における環境モニタリングに関する独自のガイドラインがいくつか公表され厳しく管理されています。しかし、日本ではガイドラインの策定は行われておらず、個別に環境モニタリングのプロトコルを設定することが求められています。
5.当社リステリア自主検査のご紹介
当社では公定法に基づく検査に加えて、より手軽にリステリアの検査を行える「ALOA One Day法」を用いたリステリア新規検査項目の受託を2023年6月より開始しました。この検査方法は妥当性確認が取れた国際認証を取得している検査方法であり、食材だけでなく環境の検査にも対応しています。
6.まとめ
リステリア属菌は幅広い環境条件で生育可能であり、リステリア属菌の中で人への病原性を示すのはリステリア・モノサイトゲネスのみとなっています。
海外では毎年のように食中毒事件が起きている公衆衛生上の重要な食中毒菌として認識されています。一方で、日本では集団食中毒の事例も殆ど無く、発症者数も少ないことから世間の認識と理解度は低くなっています。
しかし、消費者意識の向上と国際的な整合性の観点からリステリアの管理は今後より一層厳しい目で見られる可能性があると考えられます。
リステリアは環境中にバイオフィルムを形成して定着し、そこから食材へ感染する交差汚染を引き起こします。そのため、リステリアの管理には食材のみの管理だけでなく環境モニタリングが重要だと考えられます。
当社のリステリア新規検査項目は従来のものに比べより手軽にリステリアの検査を行うことが可能であり、国際認証を取得している「ALOA One Day法」を用いています。この検査法は食材だけでなく環境検査にも対応しています。
検査方法に関する詳細につきましては当社コンサルタントへお気軽にご相談頂ければと思います。
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