近年、幼稚園や保育園、こども園などにて乳幼児の食物アレルギー事故のニュースを目にする機会が増えております。 誤食による発症や、最悪の場合には命に関わる事態にも繋がるため、対策を講じないと管理責任を問われかねません。 今回のコラムでは子どもの食物アレルギー事故の現状と取り組みについてまとめました。
1.子どもの食物アレルギー事故の現状
子どもの食物アレルギー事故の現状を3つに分けて説明いたします。
(1)乳幼児の食物アレルギー事故は多い
令和4年3月 消費者庁から発表された、「令和3年度 食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書」によると、「食物を摂取後 60 分以内に何らかの反応を認め、医療機関を受診した患者数」を年齢別に集計したものとして以下の報告がありました。
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報告書内から引用:
年齢は中央値が2歳、最高齢は 92 歳であった。最頻値は0歳の 1,876 例で 30.9%を占めた。また、 1歳が 12.8%、2歳が 10.8%で、2歳までに 54.5%を占め、6歳までに 79.5%、11 歳までに 89.3%、 18 歳までに 94.7%を占めました。医療機関を受診した患者数から、乳幼児は食物アレルギー疾患有病率が高いことが見受けられます。
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参照元:令和3年度 食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業 報告書 https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/assets/food_labeling_cms204_220601_01.pdf
(2)9割の施設に食物アレルギー児が在籍し、5割の保育所で事故発生
平成27年2月5日、総務省中部管区行政評価局及び富山行政評価事務所にて、乳幼児の食物アレルギー対策に関する実態調査が行われており、その資料が公開されております。
参照資料:乳幼児の食物アレルギー対策に関する実態調査の結果 (soumu.go.jp)
これによると
・愛知県、富山県(教育委員会を含む。)、8市(教育委員会を含む。)
・8市に所在する公立保育所、私立保育所、認可外保育施設、公立幼稚園、私立幼稚園 (484 施設)
・食物アレルギーを有する乳幼児の保護者
を対象に調査をした結果、以下の結果となったと報告があります。
1 保育所、幼稚園等の約9割に食物アレルギー児が在籍していること
2 保育所の約5割で給食の配膳ミス等の事故が発生していること
(事故防止対策がとられているものの、配膳ミス等の事故が発生)
3 私立幼稚園の約5割が、国が示した食物アレルギー対応に係るガイドラインを知らず、
約7割は食物アレルギーに関する研修を未実施であること(認可外保育施設は約6割)
4 食物アレルギー児がいる施設のうち、エピペンⓇ処方児のいる施設は約2割となっていること。
またエピペンⓇ処方児のいる施設のうち、約2割の施設が緊急時に備えた訓練を未実施であること
参照資料:乳幼児の食物アレルギー対策に関する実態調査の結果 (soumu.go.jp)
上記から、こども園、保育園、幼稚園など乳幼児の通う施設では食物アレルギー児が所属していることが多いことに対し、配膳ミスが多くの施設で起きていることやガイドラインが周知し切れていないことから、これら施設における食物アレルギーに関するさらなる対策の強化の必要性がうかがえます。
(3)食物アレルギー事故発生状況
令和2年に報告された、東京都健康安全研究センターのアレルギー疾患に関する施設調査 (令和元年度) から、食物アレルギーの症状発生の有無とその原因 として、以下のように書かれています。
- 食物アレルギー症状を発症した子供がいた施設は、全体の11.7%。
- 施設別では、認定こども園が20.4%、認可保育園が18.9%と、割合が高かった。
- 食物アレルギー症状を発症した子供がいる施設の86.3%で「給食・補食・おやつ」を提供していた。
- 初発症例(症状が出る前に食物アレルギーの原因物質の診断がされていなかった)は51.6%。
- 誤食による食物アレルギーは17.1%。
- 食物アレルギー発生の原因は、食物アレルギーと知らずに原因食物を摂取したことによるものが多い。
- 誤食があった104施設のうち、原因として最も多かったのは「誤配膳」が24件(23.1%)、次いで「原材料の見落とし」が20件(19.2%)
また、先ほど紹介した、乳幼児の食物アレルギー対策に関する実態調査の結果 (soumu.go.jp)では発生時の割合として以下のような報告が上がっています。
乳幼児の食物アレルギー対策に関する実態調査
参照資料:乳幼児の食物アレルギー対策に関する実態調査の結果 (soumu.go.jp)
こうしたことから、誤食や誤配膳、原材料の見落としなど、施設における事故防止のための体制づくりが必要であることが伺えます。
2. 食物アレルギー事故:関係各所の取り組み
食物アレルギー事故の深刻化を受け、関係各所では様々な取り組みが進められています。参考となるホームページを一部ご紹介します。
厚生労働省
- 保育所におけるアレルギー対応ガイドライン(2019 年改訂版):https://www.wam.go.jp/content/files/pcpub/top/hoikuallergy.pdf
- 保育所におけるアレルギー対応ガイドラインの見直し検討会:https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-kodomo_554389_00001.html
- アレルギー疾患対策の取組について:https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001118337.pdf
農林水産省
- 食物アレルギーの方の災害時の備えに関する情報発信:
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/foodstock/imadoki/imadoki11.html
消費者庁
文部科学省
- アレルギー疾患対応資料(DVD)映像資料及び研修資料:https://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/1355828.htm
- 学校給食におけるアレルギー対応:https://www.mext.go.jp/a_menu/sports/syokuiku/1355536.htm
その他
- 公益財団法人日本アレルギー協会
アレルギー情報:https://www.jaanet.org/allergy/
- 独立行政法人環境再生保全機構
ぜんそく予防のために 食物アレルギーを正しく知ろう2021改訂版: https://www.erca.go.jp/yobou/pamphlet/form/00/archives_31421.html
関係各所の取り組みを活用し、適切な知識と情報を入手しましょう。
3. 幼稚園や保育園、こども園などで行うことができる対策:求められる取り組み4つのポイント
関係各所からはガイドラインや情報の発信が行われていますが、実際に食事を提供する幼稚園や保育園、こども園においては、個別の対策の実施が求められます。ここでは4つのポイントを紹介します。
(1)個別対応の徹底
個々の食物アレルギー児の状態に合わせた、きめ細やかな対応が不可欠です。除去対象のアレルゲン食材への配慮に加え、調理や提供時のコンタミネーションによる微量のアレルゲンの混入にも配慮した食事の提供が必要です。
(2)職員の意識向上と研修の充実
食物アレルギーに関する知識や理解を深め、適切な対応ができるよう、職員向けの研修を充実させる必要があります。また、事故発生時の対応手順を定期的に確認・共有する機会を設け、いざという時にスムーズに対応できるようにしておくことが必要です。
(3)情報伝達の徹底
保護者や職員・関係者の間で情報の共有を徹底することで、誤食リスクをできるかぎり低減しておく必要があります。アレルギー児の除去対象のアレルゲン、発症時の症状や対応方法などを相互に確認し、共通認識を持っておくことが重要です。
(4)厨房の管理と衛生点検の強化
食物アレルギー事故を防ぐためには、厨房の管理と衛生点検が重要です。なぜなら、調理器具や食材の管理、調理過程でのアレルゲン混入が、アレルギー症状を引き起こす原因のひとつとなっているため、徹底した対策が求められます。
厨房の安全性を客観的に確認するために、外部の衛生コンサルティング企業に依頼されるケースも少なくありません。
BMLフード・サイエンスでは、専門知識と豊富な経験を活かし、厨房衛生検査を提供し、安全で安心な食環境の実現をサポートしています。
詳しくは、「食品コンサル」を御覧ください。
4.まとめ
乳幼児の食物アレルギー対策に関して、関係各所では様々な取り組みを進めていますが、給食を提供する施設では個々の対策が求められます。
ただでさえ多忙な保育園、幼稚園、こども園など乳幼児を預かる施設にとって、食品衛生の法令や手法を学び、そのルールを現場に落とし込み、実際に運用することは大変です。
そういった際、当社のような衛生コンサルティングを専門に行う企業を利用するのも一つの方法ですのでぜひご検討ください。
こちらのコラムは管理企画本部企画グループが担当いたしました。