飲食店における問題のひとつとして異物混入が挙げられます。異物混入は食品の品質や安全性を低下させるだけでなく、お客様の信頼を失うことにもつながります。
このコラムでは、実際の異物混入事例と共に、原因と対策をご紹介いたします。
1.異物混入のリスク
飲食店では、お客様に対し目の前で提供を行うため、異物混入があればすぐにクレームが入ります。混入したものが毛髪や包材のビニール片などであれば、その場で作り直して再度提供することが多いのではないでしょうか。しかし、金属片などの硬質な異物をお客様が口にしてしまった場合、口腔内を傷つけてしまう、歯が欠けてしまうなどの健康被害を引き起こす恐れがあります。
また、お弁当などの、調理から喫食までに時間が要する場合においては、毛髪やビニール片であっても、腐敗菌や病原菌、ウイルスなどの微生物汚染による食品の腐敗・変敗の原因となり、食中毒事故につながりかねません。被害を受けた方には、治療費や損害賠償等の保証を行う必要が出てきます。
さらに、SNSが普及した現代では、そのような事故の情報が瞬く間に全世界に拡散されてしまうこともあるため、一つのクレームによって業績悪化や倒産につながるなどの致命傷になることもあるでしょう。このような事態を引き起こさないためには、様々な角度からの対策が重要です。
2.異物混入の原因と対策
(1)毛髪の異物混入
毛髪の異物混入は、一見すると直接的な人体への影響は少ないように思われますが、毛髪には黄色ブドウ球菌などの食中毒菌が付着していることもあり、飲食物が汚染される可能性があります。
また、お客様に心理的な不快感を与えるため企業の信用やイメージの低下に直結する恐れがあるなど、様々な問題を引き起こすリスクがあります。
毛髪の異物混入は主として厨房に毛髪を持ち込み、それを食材や食器具に落下させてしまうことで発生します。
(2)厨房への持ち込み
毛髪を厨房に持ち込んでしまう原因として、作業服に毛髪が付着した状態でそのまま厨房内に入室する、帽子・作業服などの着装が不十分な状態で厨房内に入ってしまい、厨房内で毛髪が抜け落ちるなどが考えられます。
これらを防ぐためには、作業服を清潔に管理し着用する、入室前に粘着ローラーの使用を徹底する、入室前に身だしなみチェックを行うなどの対策が有効です。身だしなみチェックにおいては自身で行うのではなく、責任者がチェックを行うなどの相互確認を実施するとより効果的です。
清潔な作業服を正しく着用し、身だしなみチェックを行うことで毛髪の持ち込みを防ぎましょう。
(3)食材内への落下
厨房内に持ち込んだ毛髪が落下した際に食材内へ落下してしまう原因として、動線付近に食材を入れた容器を放置している、食材を入れた容器に覆いがないなど、異物混入のリスクが高い状態で管理されていることが考えられます。
これらを防ぐためには、すぐに使用しない食材などは冷蔵庫や保管庫の中で管理すること、食材を入れた容器に覆いをして管理することなどが効果的です。持ち込んだ毛髪を落下させないことも重要ですが、万が一落下があったとしても異物混入に繋がらないような管理をすることも重要です。
3.従業員による異物混入
厨房内では、毛髪以外にも従業員への教育不足によって異物混入が発生することがあります。多くの場合、従業員が厨房内に私物や異物となりやすいアイテムを持ち込み、それを誤って落下させてしまうことで異物混入が発生します。
異物混入のリスクがある私物としては、指輪・ピアス・イヤリング・ヘアピン・ネイルストーンなどの装飾品、鉛筆・シャープペンシル・消しゴム・ホチキス・折れ刃式カッターなどの事務用品が挙げられます。また、絆創膏や使い捨て手袋の破片などが、正しく使用されていないために異物として混入してしまうこともあります。
これらの異物混入を防ぐための対策としては、厨房内への持込禁止品をルール化し従業員へ教育すること、誤って作業中に落下した場合に異物混入が起こらないようなオペレーションを徹底することが重要です。特に、出勤頻度の多いスタッフから、少ないスタッフ、場合によっては短時間雇用のスタッフなど、様々なスタッフが勤務する飲食店においては、必要な事項を従業員教育で確実に伝えておくことが必要です。
従業員に指導する際には持ち込み禁止の注意を呼びかけるだけでなく、分かりやすく掲示物等で示すなどの工夫を加えた教育をすると共に、出勤時に不要なものを身につけていないか抜き打ちチェックをするなどにより意図しない持ち込みを防ぐ必要があります。調理場で用いる備品は異物につながりにくい形状のものを職場で統一して採用することも有効です。
また、毛髪と同様に誤って作業中に落下した場合に異物混入が起こらないよう、食品や調理器具には覆いをすることや低位置での保管をしないことも重要です。これらは従業員の私物による異物混入を防ぐだけでなく、他の異物混入や細菌汚染などを防ぐためにも有効な手段です。
なお、従業員教育には、専門家が作成した資格から学べる3分動画による教育が有効です。
4.害虫・害獣による異物混入
ゴキブリやチョウバエといった害虫やネズミなどの害獣による異物混入は、「侵入」と、「繁殖」の2つの側面での対策が重要です。
厨房内の天井や床面、壁面などの破損は害虫や害獣が侵入できる経路となるため、適切に補修をする必要があります。原材料の納品時に使われていた段ボール箱や新聞紙には、害虫やその卵が付着している可能性があるため、敷物や容器として再利用をしないことも害虫対策として有効です。
整理整頓が不十分で、害虫や害獣が隠れやすい場所があれば、そこに住み着いて繁殖する可能性があります。また、生ごみなどの残渣は害虫・害獣のエサとなるため、定期的に厨房に付着した残渣の清掃を行い、生ごみは密閉性の高いゴミ箱に廃棄する必要があります。
期限切れや腐敗した食材が保管されている場合や、食材に覆いをせずに放置した場合などに、害虫・害獣は食材に誘われて侵入してきます。期限管理や食材の適切な保管管理を行うことが害虫・害獣の厨房内への侵入及び繁殖を防ぐことに繋がります。
侵入や繁殖をしてしまった害虫や害獣は、異物の原因となる前に駆除する必要があります。駆除にはトラップの設置や殺虫剤、殺鼠剤の使用等の手段がありますが、これらの使用が原因となって異物混入につながる可能性もあるため、害虫駆除業者、衛生コンサルタントなどの衛生専門業者に相談をして、運用ルールを決めて行うことをお勧めします。
5.施設設備・器具による異物混入
施設や設備、器具を原因とする異物混入の対策には、定期的なそれらの清掃・洗浄、メンテナンスが効果的です。
厨房内の壁や天井の劣化および汚れが放置されていると、木片や塗装片、汚れの一部などが食材へ落下し混入する恐れがあります。また、ミキサーや冷蔵庫等の設備が適切にメンテナンスおよび清掃されていなければ、緩んだネジなどの部品や、劣化によって生じた塗装剥がれやサビ、溜まった埃などが食材に混入してしまうケースもあります。そのため、厨房の施設や設備は定期的に清掃・点検を行い、必要に応じて、メンテナンス方法や頻度も予め決めておくことが必要です。特に故障や破損が想定される設備に関しては、定期的なメンテナンスを行うことで、異物混入につながるトラブルを未然に防ぐことが出来ます。
包丁やタッパーなどの器具の破損片が異物につながる恐れもあります。包丁などの破片が硬質で危険性が高いものは使用の前後での刃欠け確認を行い異物発生に早期に気付けるようにすること、タッパーなど破損の頻度が高いものは予備を用意し、劣化が見られたら交換を行うか、交換日を設けて一斉に交換することも効果的です。
施設や設備、機器のメンテナンスや清掃・点検の後は、記録を正確に残しましょう。責任者は従業員にメンテナンスや清掃・点検の方法や記録方法の教育を行い、ルールの周知を行いましょう。また、実際にメンテナンスが行われていることや、記録が残されていることを定期的に確認し、ルールが適切に運用されていることを確認しましょう。メンテナンスや清掃に関して不明な点がある場合は、設備メーカーや清掃業者、衛生コンサルタントなどの衛生専門業者に相談をして、運用ルールを決めることをお勧めします。
6.薬剤の異物混入
飲食店の厨房では、食材や調理器具の他に、洗剤や消毒剤などの薬剤も使用されます。薬剤が食品内に混入すると、生命に危険を及ぼすような重大事故に発展する恐れがあります。
実際の現場でも、油と間違えて調理時に薬剤を混入させてしまう事故や、消毒液で消毒中の容器を誤ってそのまま使用してしまうなどの事故が発生しており、最大限注意を払う必要があります。
混入を防ぐためには、薬剤を食材容器に小分けしないこと、小分けした容器に内容表記を行うこと、食品と区分けして保管すること、使用時のルールを設定することなどが重要です。また、混入した際に重大事故につながる危険な薬剤を使用していることを従業員に周知することで、より高い意識で管理を行うことができます。
7.まとめ
飲食店における異物混入のリスクや対策をご紹介しました。このような対策を行うことで、異物混入を減らすことができます。異物混入対策をルール化し、日頃の管理を徹底することで異物混入を起こさないようにしましょう。
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