
皆様は、食品へ虫が混入した事故について、ニュースやSNS等で見かけたことはありますか?SNSの普及に伴い、虫などの異物が混入した画像や動画が拡散され、食品業界へ大きな影響を与えています。
ゴキブリやハエ、ネズミなどの害虫・害獣は、サルモネラ属菌等の食中毒菌の媒介や、アレルギー物質の運搬役、あるいはアレルギー物質そのものにもなります。食品の安全性や品質、消費者からの信頼を維持するためにも、食品を取り扱う現場では防虫・防鼠対策が必要不可欠です。
本コラムでは、厨房内における害虫・害獣の種類やリスクを抽出し、食品製造現場における対策のポイントを紹介します。
1.害虫・害獣とは?
私たちの生活に有害な作用をもたらす虫や動物を害虫・害獣と呼び、厨房内においての害虫・害獣は、扱っている食品や消費者、従業員、建物など様々なところに影響を及ぼします。食品に対しては、食中毒菌やアレルギー物質の混入や、死骸および排泄物が異物混入に繋がる可能性があります。また、製品や原材料を食い荒らすこともあります。消費者に対しては、食中毒菌やアレルギー物質に伴う健康被害に繋がる恐れがあります。特に、害虫の混入は、見た目で混入したことがわかりやすいため、消費者に精神的なダメージを与えてしまいます。ネズミなどの害獣においては、営巣のために施設の壁面や断熱材、配線などを破壊し、機器故障や火災、水漏れ、漏電などを引き起こす場合があります。
2.飲食店で発生しやすい害虫・害獣
厨房内でよく目撃される害虫・害獣についてご紹介します。
(1)ゴキブリ
主にクロゴキブリやチャバネゴキブリが挙げられます。ゴキブリは、卵鞘と呼ばれる硬い殻に20~40個程度の卵が入ったものを1個産卵します。孵化後は幼虫、成虫と脱皮を繰り返しながら成長します。
成虫は、チャバネゴキブリで3~6ヶ月、クロゴキブリは6~7ヶ月生存します。クロゴキブリは約20回、チャバネゴキブリは4~7回ほど産卵するので、チャバネゴキブリで考えると、1匹が150個程度の卵を産むことになります。
ゴキブリは、暖かく狭い場所を好み、生息には水が必要不可欠です。チャバネゴキブリの場合、水無しでは餌があっても生存期間は1週間ですが、水のみで約1ヶ月の生存が可能です。また、糞に含まれる集合フェロモンにより巣に集まる習性があるため、一度住み着くと急速に増殖していきます。
ゴキブリには、大腸菌,サルモネラ属菌,赤痢菌,チフス菌等の細菌やウイルスが付着している可能性があります。ゴキブリは不衛生な場所を行き来し、細菌を付着したまま移動するため、食品や調理器具などにゴキブリが接触することによって、最終的に病原菌が人へと感染し、食中毒事故に繋がる恐れがあります。
(2)飛翔害虫
主にチョウバエやショウジョウバエ、ノミバエが挙げられます。ハエ類は、汚水だまりなどの湿潤環境を好み、排水中の有機物が腐敗・発酵して出来るスポンジ状のスカムを餌とするため、厨房内ではグリストラップや排水溝、シンク周辺に多く見られます。
ハエ類は成長サイクルが早く、10~20日で卵から成虫まで成長します。気温が高いほど成長速度が早くなるため、夏場は特に活発になります。成虫寿命は2週間~1ヶ月と短いですが、生涯で200~500個もの卵を産むため、一度発生すると大量発生に繋がる恐れがあります。
ハエ類は、ゴキブリと同様に不衛生な場所を行き来し、細菌を付着したまま移動し、食品や調理器具などに接触することによって、最終的に病原菌が人へと感染し食中毒事故を引き起こす恐れがあります。また、ハエ類は飛翔するため、異物として混入しやすい害虫です。特に、酒類やジュースなどの匂いに誘引されてくるショウジョウバエや、光に誘引されるノミバエは異物混入の可能性が非常に高いので注意が必要です。過去には異物混入したハエの卵を喫食してしまい、体内で孵化、幼虫が身体に害を与えた症例も確認されています。
コバエについての詳細はこちら(コバエ類の発生を防ぐ清掃の大切さ)

(3)ネズミ
ハツカネズミやドブネズミ、クマネズミが挙げられます。ネズミは寿命が1~2年、平均産子数は4~7匹で年間5~6回出産します。
ドブネズミは湿った場所を好むため、下水道や植え込みに生息し、ハツカネズミやクマネズミは暖かく乾燥した場所を好むため、天井裏や壁内、什器の隙間などに生息します。
ネズミは少しの隙間(1.25㎝以上)から侵入でき、様々な空間を利用して縦横無尽に移動します。ドブネズミは150m以上遊泳でき、マンホール・排水溝などを経由して便器から侵入することもあります。ネズミの歯は常に伸び続けるため、定期的に硬い物を齧る習性があります。そのため、建物に侵入したネズミは、壁やケーブル、排管を齧り、厨房設備や機器に被害を与える可能性があります。ラヴサイン(体をこすった跡)、足跡や糞、持ち込んだ餌、ギザギザした齧り跡などのラットサインが見られた場合、速やかにネズミの侵入がないか調査・対策を実施しましょう。
ネズミも、ゴキブリやハエ類と同様に、不衛生な場所を行き来することで、体に付着した細菌を媒介する他、サルモネラ属菌などの食中毒菌を保有しています。そのため、糞尿を通して人へ感染したり、直接ネズミに噛まれることで鼠咬症に感染したりする恐れもあります。
3.害虫・害獣が原因となった飲食店被害の例
(1)異物混入
飲食店で提供した調理品にゴキブリが混入し、お客様がSNSで拡散したことにより公式サイトなどで謝罪文の掲載にまで至ったケースが発生しています。
対象店舗は臨時休業を行い、すべての食材を破棄するなどの対応が求められるため、お客様からの信用を失うばかりではなく、経済的な影響も懸念されます。
(2)飲食店の火災事故
飲食店の調理場に設置された壁付コンセントの内部にチャバネゴキブリの死骸が詰まり、これがトラッキング現象を引き起こして出火の原因となったケースがあります。ゴキブリの死骸や糞が電子レンジなどの配線に影響を与える場合もあります。
また、ネズミも火災発生の原因となることがあります。分電盤内にネズミが侵入し、ブレーカーに接触したために出火した例も報告されています。ネズミは鋭い歯で様々なものを齧るため、壁内や天井の配線を損傷し、発熱出火してしまうことがあります。
4.害虫・害獣の対策
(1)破損部の修理や窓・扉の管理
害虫・害獣は、厨房内の天井や床面・壁面などの破損部や、開放された窓や扉から侵入します。破損部はアルミテープやパテ等を使用して補修しますが、破損状況によっては専門の業者への依頼を検討する必要があります。開放された場所がある場合は、害虫・害獣防止用のカバーや網戸を設置し、侵入を防止しましょう。
未使用の配管やドレンなどから侵入してくることもあるため、キャップ等を利用し覆いをするようにします。
(2)納品物の管理
納品時の段ボールにも注意が必要です。段ボールは輸送の際に汚染を受けている場合があり、ゴキブリが卵を付着させていたり、中に紛れ込んでいたりすることが多くあります。段ボールを再利用することで、ゴキブリの住処となるだけではなく、餌として食べてしまうこともあります。中身を移し替えた段ボールは、再利用をせず早めに処分をしましょう。
(3)厨房内の整理・整頓・清掃
厨房内の整理・整頓や清掃も非常に重要です。これらができておらず、害虫・害獣にとって隠れやすい場所があれば、住み着いてしまい厨房内で繁殖します。汚れが溜まりやすい什器下や排水溝・排水管、グリストラップの清掃はこまめに行いましょう。
また、害虫・害獣は匂いで誘引されることもあるため、保管する食材や廃棄物の管理にも目を向ける必要があります。食材を外に放置したり、廃棄物を長時間放置したりしないようにします。万が一に備えて、常温保存ができる食材であっても、害虫・害獣の被害に合わないように冷蔵庫内や食材保管庫で保管したり、専用容器内で保存したりすると良いでしょう。
(4)発生時の早期対応
害虫・害獣の糞などの痕跡を発見した際には、すぐに駆除などの対策を実施し、使用設備・機器の清掃を行うことが求められます。状況に応じて駆除業者に依頼する、定期的な外部業者による生息確認と必要に応じた駆除や、侵入・発生を未然に防ぐための継続的な対策を検討しましょう。また、ショッピングセンターなどでは建物を管理会社が管理し、管理会社から専門業者へ防虫防鼠対策を業務委託しているケースがあります。このような場合では、委託内容と調査結果を管理会社から共有してもらい、自身の店舗の予防管理に繋げると良いでしょう。
防虫防鼠対策は、厚生労働省令において一般的な衛生管理の基準が定められております。食品を取り扱う事業者は、害虫・害獣の生息状況を定期的にモニタリング調査し、未然に防ぐ、蔓延させない管理体制の構築が求められています。
5.おわりに
今回は厨房内での害虫・害獣対策について紹介しました。SNSの普及により、食品への混入事故は大炎上になるケースも少なくありません。また、混入には至らずとも店内で虫が発見されただけで、お客様に対して不快感などの精神的なダメージが与えられ、施設の衛生管理や提供される食品の安全性への疑問に繋がります。お客様からの信頼性の低下により、営業に支障をきたす可能性も考えられます。
害虫・害獣由来の混入事故を防ぐためにも、日ごろからも衛生管理は不可欠です。BMLフード・サイエンスでは、厨房内の衛生点検業務を実施しております。日々の衛生管理のフォローをご希望の方はぜひお問い合わせ下さい。
詳しくは、「食品コンサル」のページをご覧ください。

こちらのコラムは 第一コンサルティング本部 東京Bグループ 金城 小雪、藤田 有希 が担当いたしました。
