近年、脂肪酸という言葉をいろいろなところで耳にしませんか? スーパーマーケットやコンビニで販売している食用油には、短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸などの言葉が記載されているのもよく目にします。また、メディアでも、脂肪酸について特集が組まれるなど注目されている物質です。 しかし、そもそも脂肪酸って何?と疑問も多いと思います。
そこで今回は脂肪酸の種類と摂取のメリット・デメリットの説明をしていきます。
1.脂肪酸の種類
脂肪酸は脂質の主成分である中性脂肪(トリアシルグリセロール)の大部分を占めています。まず脂肪酸を語るうえで避けては通れない脂肪酸の構造を解説します。
脂肪酸の種類は、構造の長さによって短鎖、中鎖などに、結びつき方によって飽和脂肪酸・不飽和脂肪酸に分けられます。不飽和脂肪酸の中にはトランス脂肪酸という脂肪酸もあります。
脂肪酸は、炭素(C)が何個も繋がった鎖状の構造をしており、炭素の繋がりがすべて1本鎖(単結合)で繋がっているものを飽和脂肪酸(図1)と言い、どこかが2本鎖(二重結合)で繋がっている場所があるものを不飽和脂肪酸(図2)と言います。(二重結合は1カ所だけではなく複数カ所の場合もあります。) また、不飽和脂肪酸のなかの二重結合の向きにはシス型(図3)とトランス型(図4)があり、トランス型の二重結合をもつものをトランス脂肪酸と呼びます。このように炭素鎖の構造によって、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、トランス脂肪酸など呼び分けています。
2.脂肪酸摂取によるメリット・デメリット
飽和脂肪酸
飽和脂肪酸は、主に肉類や乳製品に多く含まれている脂肪酸です。
飽和脂肪酸のメリットは、化学的に安定しているため、体内に貯蔵し易く、エネルギーとして活用しやすいことです。
デメリットは、過剰摂取すると高LDL コレステロール血症の主なリスク要因の一つであり、心筋梗塞を始めとする循環器疾患の危険因子になることが知られています。
不飽和脂肪酸
一方、不飽和脂肪酸には、昨今注目されているn-3系脂肪酸、n-6系脂肪酸等があり様々な効果が期待されています。メディア等ではオメガ(ω)-3(n-3)やオメガ(ω)-6(n-6)と呼ばれることもあります。このn-3、n-6系脂肪酸について、その特徴と摂取により期待される効果について紹介します。
n-3系脂肪酸にはサバやイワシなどの青魚に多く含まれているEPA、DHAが該当し以前からよく知られています。最近ではアマニ油などに含まれるα-リノレン酸なども注目されています。
n-6系脂肪酸には、大豆油やゴマ油などに含まれるリノール酸やγ-リノレン酸、卵黄や豚レバーなどに含まれるアラキドン酸などがあります。
メリットは、n-3、n-6系脂肪酸は冠動脈疾患の予防に役立つ可能性があることが報告されています。また飽和脂肪酸をn-3、n-6系脂肪酸に置き換えた場合、冠動脈性心疾患発症率の減少が報告されており、循環器疾患発症率については減少が観察されていることも報告されています。
デメリットは、過剰摂取により肥満のリスクを高めます。
脂肪酸の中には、人の体内で作ることができず、食事から摂取する必要がある必須脂肪酸と呼ばれるものがあります。不飽和脂肪酸の内n-3、n-6系脂肪酸は広義で必須脂肪酸と呼ばれています。
トランス脂肪酸
不飽和脂肪酸の中でも摂取したくない物質としてトランス脂肪酸があげられます。天然では牛肉、牛乳や乳製品に微量含まれており、加工食品ではマーガリンや、ファットスプレッド、ショートニングなどと、これらを原材料に使ったパン、ケーキ、ドーナツなどの洋菓子、揚げ物などに含まれています。トランス脂肪酸は、摂取する必要がないものと考えられており、過剰摂取した場合、健康への悪影響が懸念されています。トランス脂肪酸の過剰摂取は、心筋梗塞、冠動脈疾患、生活習慣病などの健康リスクが高まることで知られています。
アメリカでは、2006年1月から加工食品について健康へのリスク観点からトランス脂肪酸の含有量の表示を義務づけています。
アメリカ以外でも、カナダ、シンガポール、台湾、香港、フィリピン、中国、韓国などもトランス脂肪酸含有量の表示を義務付けていますが、日本では表示義務はなく任意表示となっています。しかし、トランス脂肪酸に関する検討会等がおこなわれており、国内でトランス脂肪酸の健康リスクが重要視されれば今後、義務表示となるかもしれません。
3.まとめ
脂肪酸がどのようものかお分かりいただけたでしょうか?
脂肪酸には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があり、脂肪酸の種類により作用がことなります。飽和脂肪酸、トランス脂肪酸の過剰摂取は健康リスクを高め、特にトランス脂肪酸については世界各国で規制が進んでいます。
一方、不飽和脂肪酸のn-3、n-6系の脂肪酸は冠動脈疾患の予防に役立つ可能性が報告されており、飽和脂肪酸から置き換えた場合は、冠動脈性心疾患発症率、循環器疾患発症率の減少が報告されています。
ただし、飽和脂肪酸のみならず不飽和脂肪酸の過剰摂取も肥満リスクが上がることにご注意ください。
4.最後に
BMLフード・サイエンスでは、食品に含まれる飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、トランス脂肪酸の検査を行っています。また弊社では他にも、微生物検査、栄養成分検査、食品添加物検査、有害物質検査等の幅広い検査のラインナップを揃えております。
検査業務以外にも食品衛生コンサルティング業務も行っており、食品衛生コンサルティング業務から検査業務まで一気通貫で行っております。
食品表示、食品衛生、食品検査でお悩み事がございましたら、お気軽にご相談ください。
参考文献
1)消費者庁:食品表示法に基づく栄養成分表示のためのガイドライン(第4版 令和4年5月)
2)消費者庁:食品表示基準Q&Aについて(平成27年3月30日消食表第140号)
3)農林水産省:すぐにわかるトランス脂肪酸
4)厚生労働省:「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
5)「Trans Fat」(U.S. Food and Drug Administration)
こちらのコラムは埼玉理化学 渡邊 亮が担当いたしました。