
油脂は保存や調理の過程で徐々に劣化し、品質が低下します。その劣化の指標としてよく用いられるのが 酸価(AV: Acid Value) と 過酸化物価(POV: Peroxide Value) です。これらは、油脂の酸化の進行度や安全性を評価する上で重要な指標となります。
本コラムでは、油脂の劣化のメカニズムと酸価・過酸化物価について、劣化を防ぐための対策について解説します。
1.油脂の劣化とは
油脂の劣化とは、油の化学構造が変化することによって、風味の低下や有害物質の生成が起こる現象です。主に以下の3つのメカニズムが関与します。
・酸化(酸素と反応し、アルデヒドなどの有害物質が生成される)
・加水分解(水と反応して遊離脂肪酸が増加し、風味を低下させる)
・重合(高温加熱により油分子が結合し、粘度が増す)
劣化した油を使い続けると、独特のにおいや風味につながり、商品価値を低下させてしまうだけでなく、劣化した油を消費者が喫食した場合に、下痢や嘔吐などを発症することもあり、食中毒事故になることもあります。
2.劣化が進行する要因
油脂の劣化は、酸化が主要因とされています。酸化は様々な要因で引き起こされます。
(1)酸素の影響
油脂の酸化に対して影響が最も大きいのは空気中の酸素で、酸素が油脂と結合して酸化反応を起こします。冷凍庫の中であっても、空気との接触面積が大きい場合、油脂の酸化が進行します。
(2)温度の影響
油脂の酸化速度は、温度が高いほど大きくなります。一般には、10℃上昇するごとに反応速度は2倍になるといわれています。製造工程における加熱条件、販売経路における温度管理も大きく影響します。
(3)金属イオンの影響
銅、鉄、マンガン、クロム、ニッケル、コバルトなどの金属イオンは、油脂の酸化反応を加速させることが知られています。前処理、製造、保存などの過程において、金属類との接触は、油脂の酸化に影響を及ぼします。
(4)光の影響
太陽光、蛍光灯の光なども酸化を促進する大きな要因です。真空包装やガス充填包装を行っても、光照射によって酸化防止効果が大きく減少してしまいます。
3.油脂の劣化を防ぐための対策
出来るだけ新鮮な油を使い、調理後は早めに食べる事が理想ですが、実際にはなかなか難しいと思います。そこで、以下のような点に注意することで、油脂の劣化を遅らせることができます。
(1) 保存時のポイント
✅ 密閉容器を使用する
空気中の酸素や水分との接触を減らし、酸化や加水分解による油脂の劣化を防ぎましょう。
✅ 冷暗所で保管する
コンロそばなどの高温になる場所や、直射日光や蛍光灯などの光を避け、温度変化の少ない暗くて涼しい場所で保管しましょう。
✅ 包装による酸化防止
製品の保存中の酸化を防ぐ方法として、真空包装、窒素ガス充填包装、脱酸素剤封入包装などがあります。また、アルミ箔、アルミ蒸着フイルム、印刷での遮光包装も酸化防止に有効です。
(2)調理時のポイント
✅ 揚げ油の温度を上げすぎない
高温での油脂の重合を防ぐため、揚げ物の種類や食材に合わせて適切な温度で揚げましょう。
✅ 使い回しの回数を制限
揚げ油は、3~4回の使用を目安に交換しましょう。 油の色が濃くなったり、煙が出始めたり、異臭がしたら交換のサインです。
✅ 酸化されにくい油を選ぶ
油脂はその種類によって、酸化のしやすさが異なります。 オリーブオイル、こめ油、菜種油(キャノーラ油) などは一価不飽和脂肪酸を多く含み、酸化されにくいとされています。一方、アマニ油やえごま油は酸化されやすいので、ドレッシングなど非加熱で食べるときにおすすめです。
✅ ろ過
揚げカスや食材の破片は油脂の劣化の原因となります。こまめにフィルターに通してろ過をし、不要物を取り除きましょう。
4.油脂の劣化度合いを知る方法
先述のように、劣化した油を用いることは品質や安全面において問題となる可能性がありますが、油脂の劣化の度合いはどのように判断したらよいのでしょうか。
油脂の劣化度合いは、色(新鮮な油に比べて色が濃くなる)、におい(魚のような生臭いにおいや、油特有の風味がなくなる)、粘度(粘度が増し、とろみが出る)、泡立ち(油を熱したときに、消えにくい細かい泡が出る)などでも判断する事ができますが、作業者による個人差が出てしまうことも否めません。
感覚ではなく客観的に判断するためには、「酸価」「過酸化物価」などの指標を用い、 数値で劣化度合を評価することが重要です。
酸価・過酸化物価とは
油脂は酸化することによって、過酸化物を経て分解物や重合物に変化していきます。
このときの過酸化物の量を示すのが過酸化物価(POV)であり、さらに分解してできた脂肪酸の量を示すのが酸価(AV)です。どちらも数値が高いほど品質劣化が進行していると言えます。
酸価(Acid Value, AV) は、油脂に含まれる遊離脂肪酸の量を示す指標です。酸価が高いほど、油脂の品質が低下し、劣化が進んでいることを示します。 酸価の単位はmg/g で表され、1gの遊離脂肪酸を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数を示します。
過酸化物価(Peroxide Value, POV) は、油脂の酸化の初期段階で生成される過酸化物の量を示す指標です。過酸化物価が高いほど、油脂の酸化が進んでいることを示します。過酸化物価の単位は meq/kg(ミリ当量/kg) で表されます。
油脂の劣化と酸価・過酸化物価の関係
常温では、光・空気・水分・金属の接触などにより穏やかな自動酸化によって過酸化物が生成し、過酸化物価が上昇していきます。その後、加水分解や酸化により遊離脂肪酸が生成され、酸価が上昇します。 一方、焼く・揚げる等、100℃以上の加熱を行う場合、発生した過酸化物はすぐに分解されるため、過酸化物価は上がらず酸価が高くなります。

一般的に上記のような傾向があることから、酸価はフライ油の管理等の指標として用いられ、過酸化物価は油の自然劣化度合いを計りたいときなどに用いられます。
しかしながら、酸価、過酸化物価それぞれの測定対象物質の生成経路は様々です。
また、過酸化物は不安定な物質で、熱などにより分解してしまうことがあり、過酸化物価が低いことがすべての場合に食品の良好な状態を示すとは限りません。
したがって、油脂の劣化については、酸価と過酸化物価を同時に測定することで総合的に判断することができると考えられています。
また、食品によっては食品衛生法や日本農林規格(JAS)などにより、酸価・過酸化物価の基準が定められている場合もあります。

5.当社BFSでできること
当社では、業務用厨房や食品工場の点検業務や、基準油脂分析法による製品中の酸価・過酸化物価の測定を行っております。ぜひお気軽にお問合せ下さい。
BMLフード・サイエンスは、食品の微生物・理化学検査をはじめ、商品の品質検査、飲食店の厨房衛生点検、食品工場監査、衛生管理・品質管理の仕組みづくり、食品安全認証の取得支援まで、ワンストップでサービスを提供できる総合コンサルティング企業です。 長年培ってきた高度な検査技術とノウハウをもとに、質の高い各種検査とコンサルティング事業体制を構築しており、全国を網羅したネットワークにより、スピーディなサービスを提供します。
詳しくは、「コンサルティングサービス」のページをご覧ください。
6.おわりに
劣化した油は、風味の劣化だけでなく、健康リスクを伴うため、適切な管理が不可欠です。油を適切に管理するためには、酸価や過酸化物価といった数値化された指標により、客観的に評価することが鍵となります。新鮮な油を正しく扱い、安全でおいしい食生活を送りましょう。


参考文献
1)公益社団法人 日本油化学会、基準油脂分析試験法 2013年度版、(2013)2)厚生労働省「酸価・過酸化物価に関する規定等」
こちらのコラムは 検査本部 が担当いたしました。