集団食中毒の原因となる菌の一つに、ウエルシュ菌という菌があります。ウエルシュ菌は、ニュースによく登場するノロウイルスや腸管出血性大腸菌(O157等)と比べてあまり耳にすることは多くありませんが、注意すべき食中毒菌の一つとされています。今回はウエルシュ菌の特徴とその対策方法についてご紹介します。
1.ウエルシュ菌ってどんな菌?
ウエルシュ菌はClostridium(クロストリジウム)属の1種でグラム陽性桿菌であり、酸素があると発育できない偏性嫌気性菌です。この菌の特徴は芽胞を形成する事であり、芽胞を形成した場合は加熱や乾燥などの厳しい環境下でも影響を受けずに強い抵抗性を示します。また、菌の増殖と共に毒素(エンテロトキシン)を産生するという特徴もあります。厚生労働省の統計によれば、わが国における令和4年のウエルシュ菌食中毒の事件数は22件と他の食中毒と比較して多くはないものの、事件1件あたりの食中毒患者数は66.7名(ノロウイルス34.5名/件、腸管出血性大腸菌9.75名/件)と非常に多いのが特徴です。
ウエルシュ菌食中毒は大量の食事を取り扱う給食施設や仕出し弁当屋での発生が多いことから「給食菌」や「カフェテリア菌」の別名で呼ばれることもあります。まずはその大きな4つの特徴についてお伝えします。
(1)ウエルシュ菌の食品への汚染経路
ウエルシュ菌は私たちヒトや動物の腸内、糞便をはじめ、土壌や下水などに広く分布しており、汚染の機会は多いとされています。特に、牛、豚、鳥などの家畜や魚などもその生活環境及び飼育環境に保菌する場合があります。
(2)ウエルシュ菌を媒介する食品
多くはウエルシュ菌に汚染された食肉、あるいは魚介類等が原因となっています。これらはウエルシュ菌の汚染率が高いため、食肉や魚介類を使用した食品についてはウエルシュ菌による汚染リスクを意識する必要があります。また、ウエルシュ菌食中毒の多くは学校給食や仕出し屋の料理、弁当類のように一度に大量の材料を使用して調理した食品で多く発生しており、主な例としてカレーやスープなどの煮込み料理がよく挙げられます。
(3)ウエルシュ菌の発生要因
ウエルシュ菌は、食品が大量に加熱調理された後、そのまま数時間から一夜室温に放置される事によって大量増殖します。
通常、加熱調理する事で細菌の多くを死滅させる事が出来ますが、ウエルシュ菌は芽胞を形成する事で生存するとされています。これによって他の競合する菌が減少するため、ウエルシュ菌が増殖しやすくなります。
加えてウエルシュ菌の増殖しやすい温度帯は43〜47℃であることから、加熱調理後の食品が徐々に放冷していく過程で急速に増殖します。
また、空気の無い環境でも増殖することができるため、食品を加熱する場合には食品内に存在する酸素が追い出され、生存するのに好条件の環境となります。
(4)ウエルシュ菌の人体への影響
潜伏期間は6~18時間と短く、ウエルシュ菌に感染すると、主に水溶性の下痢と腹痛が症状として表れます。吐き気や嘔吐は比較的少なく、発熱は稀であるとされています。ごく稀に粘血便を伴う重症例も存在しますが、ほとんどは1~2日で回復し、予後は良好です。
なお最近、食中毒とは異なる感染経路で発生するウエルシュ菌集団下痢症も報告されており、これは高齢者福祉施設で発生する事例が多く、主にベッドの柵や便器等の周辺環境が原因となり院内感染と認められた例もあります。
2.ウエルシュ菌 予防対策 抑えるべきポイント
ウエルシュ菌の特徴、食中毒の発生要因に触れたとおり、ウエルシュ菌は自然界の常在菌であるため、食品への汚染を根絶することは不可能ですが、発症には多くの菌量(約100万個以上)が必要とされています。したがって、予防の要点は食品中での菌の増殖防止です。その予防対策として抑えるべきポイントを3つ紹介します。
(1)加熱中の対策
ウエルシュ菌そのものは加熱調理しても、芽胞という殻を作って生き残る性質があり、単純に加熱するだけでは対策として不十分です。また加熱中は空気が食品中から追い出されるため、空気が苦手なウエルシュ菌にとっての好条件となります。
対策として食品をよくかき混ぜながら加熱調理を行う事が望ましいです。これにより空気との接触を増やすことができ、ウエルシュ菌の増殖を抑制できるとされています。
(2)保管方法、冷却をしっかり!
耐熱性のウエルシュ菌は芽胞を形成して生き残り、加熱調理後50℃程度にまで下がると芽胞が発芽を始め、43~47℃になると最もよく増殖するため、20℃~50℃の温度域を速やかに通過させ、10℃以下に冷却することが望まれます。小分けにして冷蔵庫で速やかに保管する、または氷水で急速に冷却する等が推奨されています。これらの方法で冷却できない場合には55℃以上で保管しましょう。これにより菌の増殖を抑制できます。
前日調理、室温放置はウエルシュ菌が増殖しやすくなると考えられるので、避ける事が望ましいと言えます。
(3)再加熱時には特に注意
ウエルシュ菌の産生する毒素(エンテロトキシン)は熱に弱く、加熱(60℃ 10分)で容易に不活化されるとされています。保存した食品を提供する際には十分に再加熱し、鍋底までしっかりかき混ぜましょう。調理した後はできるだけ早く食べましょう。
3.食品や厨房環境で気を付けるべきこと
ウエルシュ菌への対策は調理時だけでなく、食材そのものや厨房といった調理環境への対策、調理に携わる人の衛生面に関する知識も重要になります。ここからはその対策についてご紹介します。
厨房での食品・食材の扱い方
ウエルシュ菌による食中毒の原因食材はさまざまですが、カレーやシチュー、ビュッフェ形式等の作り置きされた食材を喫食することで多く発生しています。大量調理を行う給食施設等では、大鍋・大釜で前日に調理して、そのまま室温で放冷されていた事例が多く見られます。これらの状況下では食中毒事故の発生条件が揃う状況が起きやすく注意が必要です。
また、ウエルシュ菌は自然界に広く分布していることから、原材料からの混入を防ぎきることが難しい食中毒菌であることも留意する必要があります。食材や食品の汚染状況の確認には食品微生物検査がおすすめです。弊社BMLフード・サイエンスでは、食肉などの食材や調理後の弁当やお惣菜にウエルシュ菌がどのくらい存在しているかを検査することができますので、是非弊社にご相談ください。
厨房の衛生管理とは
ウエルシュ菌の主な感染経路は食品内で増殖した菌によるものではありますが、他にも人の手指や糞便を介して発生する事も考えられ、実際に厨房のふき取り検査からウエルシュ菌が検出された事例もあります。厨房で働く人においても、衛生知識や清潔の習慣などを身につけておくことも重要とされており、『加熱済食品は安心』という思い込みがウエルシュ菌による食中毒を発生させることにつながると考えられます。
厨房の衛生管理が適切に行われているかを確認し、そこで働く人に対して衛生に関する習慣や知識を習得させ、さらに継続的に見直しを実施する事をお勧めします。こちらについて弊社BMLフード・サイエンスは厨房衛生点検というコンサルティングサービスを提供しておりますので、是非お気軽にご用命ください。
4.おわりに
食中毒原因の一つであるウエルシュ菌についてご紹介しましたが、その特徴と発生原因についておわかりいただけましたでしょうか。その発生の場となりやすい大量調理環境では、その多忙さから食品の取り扱いが疎かになってしまいがちになってしまう事は十分に考えられますが、今回ご覧いただいた内容を意識して食中毒防止に繋げていただければ幸いです。
なお、弊社BMLフード・サイエンスでは食中毒をはじめとした食品事故を予防するために多種多様な検査やコンサルティングを行っており、食品に携わる皆様の食の安全安心を全力でサポートしてまいります。お困りの際は是非弊社までお気軽にご用命ください。
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