
「サイレントチェンジ」という言葉をご存知でしょうか。製造メーカーがコスト削減等の事由により、販売元の企業に知らせずに、部品の素材等の仕様を変更し、納品してしまうということを指します。このような変更は、製品の品質や性能に影響を及ぼす可能性があります。
本コラムでは、発生する背景や防止策について解説します。
1.サイレントチェンジとは?
サイレントチェンジとは電気製品、雑貨品等で主に使用されている言葉で、「製造メーカーがコスト削減等の事由により、販売元の企業に知らせずに、部品の素材等の仕様を変更し、納品してしまうということ」(経済産業省HP参照)を指し、仕様の変更により本来の安全性が担保できず事故に繋がる原因のひとつとして取り上げられています。
食品でも、PB商品やNB商品等を発売後、次の2つのように商品の内容が変更されるケースがあります。
①仕様書、規格書を確認して、当初製品を製造したが、製造メーカーが主導となり、販売元に連絡をした上で、仕様を徐々にブラッシュアップするという形で中身を変更し、製造する場合。
②PBとして「この商品として作って欲しい」と販売元の要望を確認して作っていき仕様書を作成するが、効率性や利益性を追求する中で、製造メーカーが販売元に連絡せず、仕様を変更し製造してしまう場合。
このうち、①は皆さんご存じの通りリニューアルです。そして②のことをサイレントチェンジといいます。サイレントチェンジは無断での変更のため、販売元からの信頼を大きく裏切る行為であり、リスクの重要度としては非常に高いものです。
2.近年あった、具体的なサイレントチェンジの事例
事例は多くありますので、食品と商品雑貨それぞれから数例を紹介します。
(1)食品
安価な原料への切り替えや、製造工程の変更等により、中身の成分と表示に齟齬が起きてしまう場合があります。例えば、次の事例があります。
①ビタミンなど時間の経過により量が減少してしまう成分を添加する場合、賞味期限内で表示値を担保するために、本来上限値まで多く入れているが、それをギリギリの下限まで下げられた事によって、賞味期限まで表示値を担保出来なくなっていた。
②商品の原価に占める割合の高い、高コストの部分を違う原料に置き換えられていた(砂糖を使っていたものを、砂糖とは別の安い原材料で置き換えてしまう)。
③内容量を気付かないうちに少しずつ減らされていた。
(2)商品雑貨
入っている組成が変わってしまう場合があります。例えば、次の事例があります。
①電源コネクターの絶縁樹脂に含まれる難燃剤の仕様が変更されていたために、コネクター部に異常発熱が起きた。
②品質の良い金属を使っているはずが、安い金属に置き換えられていた。
③再生利用した綿100%の布製品に、他の化学繊維製品が交ざっていて、景品表示法上の措置命令が発出された。
どれも安全性や品質を担保する上での重要度が高く、販売元が製造メーカーへの監視を怠ってはならない事例と考えられます。
3.サイレントチェンジが発生する背景
一つ目は、無理のある発注や受注が背景にあるのではないかと考えます。「あそこなら無理を聞いてくれる」等、無理な発注や受注をしたことで、販売元と製造メーカーとの間で構造が歪になっている可能性が考えられます。二つ目は、利益を取るための秘策として、法律に違反しない範囲で、どうすれば効率や利益をとれるか、製造メーカーが突き詰めて考えた結果起こることが考えられます。昨今の原材料費の高騰や人員不足で苦しい部分も一因となっているのではないかと考えられます。
4.サイレントチェンジの防止策
アレルギーや栄養成分が異なることによる健康被害、食品表示の間違いによる法令違反等は、企業にとって一大事に繋がるため、対策が必要だと考えます。具体的な防止策としては次の2つです。
①製品の製造が仕様通りに行われているか、工場の中の定期的なチェックを行う。
②実際に検査を実施し、規格で定めた内容通りに出てくるかどうかについて確認する。
①に関して、実際行っている例としては、販売元の品質保証部門が定期的に工場へ訪問し、内部監査をすることで品質を保証していくといった取り組みがされています。また、定期的な監査の実施を実現するため、近年当社のような工場監査のできる会社に相談されることもあります。
②に関しては、規格・基準が定められた成分の検査をしてみるといった取り組みが挙げられます。例えば、添加物の量や種類、栄養成分、アレルギーについて検査した結果が規格・基準から逸脱していないか確認をすることが大切です。
①②どちらも大切ではありますが、労力を考えるとまず検査で確認することを推奨します。その上で不審がある工場については、実際に立ち入り監査をすることで、サイレントチェンジが行われていないか確認を取るとよいと考えます。
5.当社での取り組み事例
当社では、食品、商品雑貨ともにサイレントチェンジの検査のご依頼を承っています。商品雑貨においては、過去に綿100%のタオル製品の混用率を調べたところ、綿100%でないことが判明し、海外製造委託先の変更に至った事例があります。食品においても、栄養成分の訴求があるものについて食品表示法、景品表示法の2つの法律の側面からの調査を行っています。こちらも一例ではありますが、検査した商品のうちの6割の商品で食品表示基準上定められた許容差の範囲を逸脱し、3割の商品で栄養強調表示の基準からの逸脱や優良誤認につながる恐れが高い結果が得られた事例があります。また、食品においては検査結果の数値が逸脱していたからといって、その全てがサイレントチェンジとなる訳ではありません。そのため、検査を実施するだけでなく、 次に挙げる想定される要因毎に結果を整理し、サイレントチェンジの見極めと、それぞれの要因に対する対応策の提案を行っています。
① 商品開発時の検証が十分に行われていないことが想定されるもの
昨今、食物繊維や糖質量を訴求した商品が多く見受けられます。このような商品の中には果実やナッツを単に乾燥させただけのもの等、簡単な加工しか施されていないものも多くあります。これら商品の栄養成分は原料に大きく左右されます。例えば、パイナップルを乾燥させた商品を考えてみると、品種間の差、生産地(露地)間での差、収穫時期における差、使用する部位での差等が考えられます。一般的には商品開発の段階で、これらの差を考慮し必要なロット数を用いた検査を行い、数値のバラつき等を考慮し、表示値を決定しますが、こういったことを考慮せず商品仕様を決定した場合には、実際の商品を検査した際、表示値を逸脱することが想定されます。また、ビタミン類を配合した商品では、熱や光、空気の影響を受けて製造後、賞味期限までに成分が分解されてしまうものもあります。こちらも一般的には、成分がどの程度分解されるものか、保存試験での確認や、理論値等をもとに添加量を決定しますが、これらを考慮せず、表示されている成分値ギリギリの量しか成分を添加しない仕様で製品化された場合には、表示値やその許容差の範囲を下回ることが想定されます。このような要因が疑われる場合には、製造委託先等へ製品開発時に十分な検証を行っているか確認を行うことや、再発防止のために商品開発時の検査やコンサルティングを通した支援についての提案をしています。
② 原料に由来する成分のバラ付きが想定されるもの
ビタミン類やミネラルを訴求したサプリメントをはじめとする健康食品の多くは、栄養強化目的の添加物製剤を添加することや、その成分を多く含む「原料」を添加することで訴求された量を担保しています。ここでいう「原料」は先述した果実の乾燥品等の原体やそれに近いものは除いた、添加物製剤や抽出物等の加工度の高いもののことをいいます。仮にこれら「原料」に含まれる成分が一定でない場合、当然ですが最終製品での栄養成分値にも影響があります。一般的には、原料をGMPに則り製造されたものであるか等の基準にしたがって採用することや、原料ロットが変わった際に製造した最終製品を検査した上で出荷する等の対応を行います。しかし、これらの対応が行われない場合、正しい仕様で商品を製造しているにもかかわらず、実際の製品を検査した際に表示内容から逸脱してしまう可能性が高まります。このような要因が疑われる場合には、原料メーカーへの監査実施の提案や、定期的な原料の栄養成分検査等について提案をしています。
③ 製造時の工程が疑われるもの
上記①②の要因について問題が無い場合、正しい仕様での製造が行われていない、すなわちサイレントチェンジが行われている可能性が高いと考えられます。この要因が疑われる場合には、製造メーカーへの監査実施を提案しています。実際に検査した際の製造ロットを含めた製造状況の確認等を行い、問題点の洗い出しを行います。
6.まとめ
サイレントチェンジのポイントをまとめると次の通りです。
・サイレントチェンジとは、製造メーカーが販売元に連絡することなく勝手に仕様を変更し製品を製造してしまうことを言います。
・サイレントチェンジの防止策としては、定期的な工場監査や製品が仕様で定めた規格を満たすか検査で確認することが有効です。
・食品のサイレントチェンジについては、検査結果が規格を逸脱したからといって全てがサイレントチェンジとなる訳ではなく、商品開発時の検証不備、原料に起因するもの等、複数の要因を考慮し、判断する必要があります。
また、実際にサイレントチェンジの検査を行ったお客様からは次のお声をいただいております。
・製造委託しているメーカー様と良い緊張感をもって業務に取り組めるようになった。
・委託先メーカーを選定する際、コストだけでなく、品質を担保する上での基準として、社内に説明がしやすくなった。
PBを製造委託している企業様においては、検査を実施してみて、製品および製造メーカーの適合性・適切性を一度確認されてはいかがでしょうか。問題点が隠れていることは多くあると考えられます。
BMLフード・サイエンスでは、食品衛生コンサルティングや、食品・商品の検査を行っております。
厨房や工場の点検、監査から、関連法規に照らした食品等の表示確認、品質管理の仕組み構築や教育研修など、多種多様なサービスを提供しており、サイレントチェンジに関する検査や製造元への監査対応、品質管理システムの構築支援をすることも可能です。
詳しくは、「食品コンサル」のページをご覧ください。
このコラムの監修者

佐藤 直樹
株式会社BMLフード・サイエンス 技術顧問
1987年4月環境分析センター<現㈱BMLフード・サイエンス>入社。以後、食品微生物検査、理化学検査、異物検査、環境水質検査の担当を経て、店舗・工場の衛生管理指導に従事。その後、大手量販店に出向し、品質管理メンバーとして、PB商品・輸入食品の品質管理に携わる。帰任し、食品検査受付部門、食品表示コンサルティング部門、衣料雑貨品コンサルティング部門の責任者を担う。現在は、㈱BMLフード・サイエンスの技術顧問として活躍中。
資格:上級食品表示診断士
ISO9001 JRCA登録審査員補
IRCA FSMS准審査員
こちらのコラムは 第四コンサルティング本部 表示グループ 鎌田 裕が担当いたしました。
