飲食店や食品メーカーなど、食品を扱う事業を運営していると、衛生管理の手段のひとつとして、食品の検査(微生物検査)を実施することがあります。では、どのような場面で検査が求められ、どのように検査が行われているのでしょうか?今回は、代表的な検査が必要となる場面と、その対応についてご紹介します。
1.必須となる食品の検査とは?
食品を取り扱う上で検査が必須となる場面として、主に命令検査と規格基準検査の2つがあります。それぞれについて解説します。
(1)命令検査
食品衛生法第26条で、以下の通り定められています。
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都道府県知事は、次の各号に掲げる食品、添加物、器具又は容器包装を発見した場合において、これらを製造し、又は加工した者の検査の能力等からみて、(中略)食品衛生上の危害の発生を防止するため必要があると認めるときは、政令で定める要件及び手続に従い、その者に対し、当該食品、添加物、器具又は容器包装について、当該都道府県知事又は登録検査機関の行う検査を受けるべきことを命ずることができる。(以下省略)
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この法律に従い、食中毒の発生時や、残留農薬を含む規格の逸脱が見られた際には、事業者は命令された検査を実施しなければなりません。この際、気を付けなければならないのは、検査を行うことができるのは登録検査機関となっている点です。登録検査機関とは検査を行うための設備や検査員が整っており、検査業務の管理や精度管理に関する信頼性確保の体制が整い、さらに中立性が確保されていることを厚生労働大臣により確認された検査機関となります。
このため検査の命令を受けた事業者は多くの場合は自社で検査をすることができず、検査の実施が可能な登録検査機関を探して検査を委託しなければいけません。
(2)規格基準に沿った検査
食品衛生法第13条第1項に基づいて、以下の特定の食品を製造する際には食品毎に細菌数や大腸菌群、E.coli、黄色ブドウ球菌などの規格が定められています。
・清涼飲料水
・粉末清涼飲料
・氷雪
・氷菓
・食肉及び鯨肉(生食用食肉及び生食用冷凍鯨肉を除く)
・生食用食肉(牛の食肉(内臓を除く)であって、生食用として販売するものに限る)
・食鳥卵
・血液、血球及び血漿
・食肉製品
・鯨肉製品
・魚肉ねり製品
・いくら、すじこ及びたらこ(スケトウダラの卵巣を塩蔵したものをいう)
・ゆでだこ
・ゆでがに
・生食用魚介類
・生食用かき
・寒天
・穀類、豆類及び野菜
・生あん
・豆腐
・即席めん類
・冷凍食品
・容器包装詰加圧加熱殺菌食品
また、このほか、乳及び乳製品の成分規格等に関する命令によって、牛乳や加工乳、クリームやバターなどの乳製品についても細菌数、大腸菌群、リステリア・モノサイトゲネスについて、それぞれ規格が定められています。
これらの規格は法令に基づくものとなっており、食品事業者にとって守ることが義務となっています。検査の実施自体は義務ではありませんが、規格違反を起こしていないか確認、検証をするため、一定の頻度での検査が多くの事業者で行われています。
2. 自主的に行われている食品の検査とは?
上記のような法令で定められていることから行われる検査とは異なり、食品事業者によって自主的に行われている検査があります。その背景となるオペレーションの検証と顧客の要求、認証・適合証明における要求事項について、それぞれ解説します。
(1)オペレーションの検証
自主的に行われている検査の多くは自社のオペレーションが適切に行われ、意図した基準をクリアした食品が作られたことを確認、検証する手段として実施されています。
食品そのものを使った検査のほか、製造環境の汚染状況を調べるため検査用のスワブ等を用いたふき取り検査や、寒天培地を用いた落下菌検査、エアーサンプラーを用いた空中浮遊菌検査が行われます。
(2)顧客の要求
自社で必要として実施している検査とは別に、顧客の要求や対外的な証明のために検査をすることもあります。購買を開始する際の条件として、特定の検査項目の結果を提出するよう求める場合や、購買期間中に一定の頻度で検査結果を提出するよう求める場合があります。このような場合には顧客が求める検査項目や頻度に合わせて対応をすることが必要となります。
(3)認証・適合証明における規格要求事項
多くの認証や適合証明の規格要求事項では検査に関して要求事項を設けていることが多いです。例として以下にいくつかの検査に関する規格要求事項を挙げます。
■JFS-B ver.3.0(FSM19)
組織は食品の安全に影響するところ及びものについて、適切に検査を実施しなければならない。また当該検査は力量のある検査部門または分析機関により行わなければならない。
■ISO22000:2018(8.8.1 検証)
組織は、検証活動を確立、実施及び維持しなければならない。検証計画では、検証活動の目的、方法、頻度及び責任を明確にしなければならない。個々の検証活動は、次の事項を確認しなければならない。
a)PRPsが実施され、かつ効果的である。
b)ハザード管理プランが実施され、かつ効果的である。
c)ハザード水準が、特定された許容水準内にある。
d)ハザード分析へのインプットが更新されている。
e)組織が決定したその他の活動が実施され、かつ効果的である。
(以下省略)
■FSSC22000 ver.6.0(追加要求事項2.5.7および2.5.1 aから抜粋)
組織は次のものを備えていなければならない
a.関連する病原体、腐敗菌、指標生物に関する、リスクに基づく環境モニタリングプログラム
b.製造環境による汚染防止のためのすべての管理手段の有効性を評価するための手順書。これには最低でも実際の微生物管理手段の評価を含めなければならない
c.定期的なトレンド分析を含む環境モニタリング活動のデータ
d.環境モニタリングプログラムの継続的な有効性と継続性の見直し
組織は、食品安全にとって重要なパラメータの検証及び/又は妥当性確認に試験所分析を利用する場合、それらが妥当性確認された試験方法及びベストプラクティス(例えば、習熟度試験プログラム、規制承認プログラムに参加して合格、又はISO/IEC17025などの国際規格への認定)を用いて、正確で再現性のある結果を提出する能力のある試験所(該当する場合、内部及び外部の試験所)によって実施されることを確実にしなければならない。分析は、ISO/IEC17025の適用要求事項に従って実施されなければならない。
これらのように、各規格要求事項では組織が食品の安全を検証するための手段のひとつとして検査を設定しており、その検査を行う部門や機関には一定の力量を担保することを求めています。
3. 自社で検査するときの注意点
自社で検査を行う場合は、検査方法の設定、検査環境と検査人員の整備、内部監査の仕組みを整える必要があります。
(1)検査方法の設定
自社で検査を行う場合には、まずどのような検査方法で行うかを決定する必要があります。検査方法には、従来から存在する、培地を都度作成して植菌して行う培養検査法のほか、既成培地を使用する簡易的な培養検査法や、対象となる病原体の遺伝子特徴をターゲットに検査する遺伝子検査法、自動機器や簡易キット、同定試薬を用いる迅速簡便法などが存在しています。
簡便法は素早く簡単に検査結果が求められるメリットが有りますが検査頻度によってはコストが高くなってしまう場合もあり、また検査の目的によっては食品衛生法に基づく公定法での実施が求められる場合もあるため、それぞれの検査の用途や、検査頻度等を基準に検査方法を決定する必要があります。
(2)検査環境と検査人員の整備
検査方法を決定したら、次に検査環境や人員を整備します。選択する検査方法によって準備する機器や資材は異なりますが、検査のボリュームに応じた設備や人員数を準備する必要があります。また検査人員は検査内容に適した力量を持つ人員が必要であり、その力量の証明としては、一般的にサーベイが活用されます。
サーベイについて詳細はこちら(https://www.bfss.co.jp/media/column/survey01)
(3)内部監査
検査が適切に手順通り遂行されていることを確認し、また検査実施上の不正を防ぐため、内部監査を行う事も必要となります。内部監査を実施する人員は、監査対象である検査の業務に関わっておらず、検査の結果による利害関係がない人員が行うことが求められます。
4.検査を外部委託するときの注意点
ここまで、自社で検査を行う場合の注意点について記載しましたが、検査の実施を外部に委託することも考えることができます。ここまでで見てきたように自社で検査を行う場合には検査施設や人員を用意し、サーベイや内部監査で検査精度を維持することが必要となり、コストやリスクを抱えることに繋がります。検査を外部委託することで、そのような不安を解消することが可能となります。ここでは検査を外部委託する際にはどのようなことに注意が必要かを見ていきましょう。
(1)必要な検査を提供できるか
まず初めに、自社が求める検査を実施しているかどうかを確認することが大切です。自社の希望に応じた項目、手法、価格で検査を提供可能か確認していきます。検査会社によっては検査ができない項目を、さらに別の業者に再委託をする場合もあります。そのような場合には一般的に価格が高くなりやすいこと、また再委託先の管理がどのように実施されているかを確認することが必要となるため注意が必要です。
(2)検査の能力は十分か
必要な検査の提供を受けられることが分かったら、今度は検査の能力が適切か確認する必要があります。委託先の施設状況や人員状況が限られる場合、検査を依頼したいタイミングに対応ができない可能性や、結果が欲しいタイミングで得られないこともあります。そのため事前に自社が検査を委託したい検体数や頻度を検査会社に伝え、希望のタイミングで検査の実施や結果の報告が可能であることを相互に確認しておくことが望まれます。
また、検査の力量が十分であるかも確認が必要です。検査の力量を見分ける目安としては、厚生労働省の登録検査機関であることや、試験所の能力に関する国際規格であるISO/IEC17025の認定を受けていることなどが挙げられます。
(3)実際に確認すること
検査を委託し始めたら、納品される検査報告書を確認しましょう。依頼をした検査項目、検査方法との相違がないことはもちろん、検査結果が適切だったのか、あるいは異常が見られたのかを検査報告書が届き次第確認し、もし結果に異常が見られた場合には必要な対応をとることが望まれます。検査会社によっては、対策を相談することも可能な場合がありますので、有効に活用することをお勧めします。
検査の頻度が多い、または自社にとって特に重要な検査を委託する場合には、委託先の管理として、実際の検査室を視察することもお勧めします。
5.BFSの検査サービス
BMLフード・サイエンスでは多くの食品関連事業者様より微生物検査の受託を行っています。一般生菌数や大腸菌群、大腸菌などの衛生指標菌はもちろん、リステリア・モノサイトゲネスや、カンピロバクターなど、特定の菌種の検査も受託可能です。商品の期限設定の参考となる保存検査も、様々な条件や期間に対応が可能な設備を用意しています。専門の教育を受けたスタッフが迅速、正確に検査を行っており、検査結果はWEB報告サービスによって郵送のタイムロス無く受け取ることができます。検査結果に対しアクションが必要な場合は、経験豊富なコンサルタントによるアドバイスを受けることが可能です(別途有料での対応となります)。
BMLフード・サイエンスの微生物検査サービスについて詳細はこちら(https://www.bfss.co.jp/service/testing/microbe/)BMLフード・サイエンス微生物検査室
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こちらのコラムは管理企画本部企画グループが担当いたしました。