日々、お客様へおいしい料理を提供し続けている調理従事者の皆様、また、その厨房を管理している本部の方々、コラムを閲覧頂きありがとうございます。
今回のコラムは厨房の衛生管理について知ってほしいポイントを3つに絞ってご紹介します。
1.はじめに ~厨房の衛生管理はなぜ大切なのか~
どんなにミシュランで星を獲得するレベルで料理がとてもおいしいからと言っても、料理の安全性が守られておらず、不衛生な厨房で調理されたものであったらお客様にとっても提供元にとってもデメリットでしかありません。
安全性が確保されていない料理を食べてしまった場合は、食中毒につながる可能性があります。食中毒が起きた場合、体調を崩し、症状によっては後遺症や障害が残ることもあります。最悪の場合は死亡するケースも考えられます。企業として提供した料理が原因であった場合、当然責任問題となり社告を出すことも想定されます。メディアやSNSにより簡単に情報が広まりやすくなっている現代では、一度失ってしまった信頼を回復するのは至難の業で、たった一度の事故であってもそれが原因で倒産に至る場合もあります。
そうならない為にも日頃の衛生管理はとても大切になります。
このコラムでは食中毒事故予防のためのポイントを、「食材」、「調理器具」、「従業員」の3つに絞ってお伝えします。
2.食材の衛生管理
食材の衛生管理を行っていくうえで重要になることは、「日付管理」、「温度管理」、「保管方法」の3つです。
それぞれにスポットをあて、詳しく紹介します。
(1)日付管理
厨房には原材料や仕込み品、調味料まで含め多種多様な食材が存在しています。
加工食品には予め消費期限や賞味期限が設定されています。消費期限は、製造者が食材を安全に喫食できる期限を設定したものであり、消費期限を超えた食材は安全でなくなる可能性があるため使用を控えるべきです。賞味期限は食材のおいしさなどの品質が保たれる期限であり、直ちに安全性に問題が発生するとは限りませんが安全な食品の提供においては守るべき期限となります。
また仕込み品など期限が設定されていないものに関しては、厨房管理者が自ら期限ルールを設ける必要があります。期限の設定は、可能であれば保管検査や微生物検査により、科学的な根拠を持って安全性が担保できる日数で設定する事をお勧めします。
当社のサービスで厨房の衛生点検に伺うと、冷蔵庫の奥や食材保管棚の隅などから、使用期限が切れた食材を発見することが多くあります。
数ある食材の期限を常に把握することは難しいことですが、期限が切れた食材をそのまま保管することは誤使用につながりかねません。
これを未然に防止するためにも、食材の日付管理を行う際は以下の方法で管理することをお勧めします。
①定期的に棚卸を行い、期限が切れているものは廃棄し、期限が近いものを把握する
②開封日又は破棄日を書いたカードを食材容器に貼り付け、誰が見ても期限が分かるようにする
(2)温度管理
特に冷蔵や冷凍、温蔵すべき食材を扱うほとんど全ての厨房関係者にとって、食品の衛生的な管理と品質維持のために温度管理は欠かすことができません。
ここでは、飲食店で忘れがちな温度管理を2つ紹介します。
①原材料を受け取るとき
冷蔵や冷凍での原材料を店舗で受け取る際にも温度の確認は必須となります。
冷蔵・冷凍食材を基準温度を上回った状態で受け取ると、食中毒発生のリスクが上昇します。例えば、赤身魚で問題になることが多いヒスタミン産生菌が作るヒスタミンや、人の傷口(化膿創)や皮膚などに常在する黄色ブドウ球菌が食材の中で増殖する際に産生するエンテロトキシンなど、毒素を生成する菌から作られる毒素は耐熱性を有している場合があり、原料として受け取った時点で毒素が産生されていた場合は後の工程で加熱が入ったとしても、菌は死滅しても毒素は食品中に存在し続けることになります。そのため、食材の受け取り時に、適切な温度で運ばれてきたことが確認できない場合には、受け取らず調理に使用することを控える必要があります。こうした目的から食材を受け取る際の温度管理は非常に重要になります。
②加熱調理中の温度(中心温度)
肉類や魚類をはじめ加熱して提供する際は、食材の特性を知り適切に温度調節を行うことが重要です。
「半生の方がおいしいから」、「食感がいいから」という理由で安易に加熱調理工程を省略したり、弱めたりすることは行わない様注意してください。加熱不十分の食材を提供し食中毒を発生させた事例は毎年少なからず発生しています。集団給食施設等における食中毒を予防するために、厚生労働省が示している大量調理施設衛生管理マニュアルでは、「加熱調理食品は、中心部温度計を用いるなどにより、中心部が75℃ で1分間以上(二枚貝等ノロウイルス汚染のおそれのある食品の場合は85~90℃で 90秒間以上)又はこれと同等以上まで加熱されていることを確認するとともに、温度と時間の記録を行うこと。」と記載されており、感覚に頼らず、決められた温度と時間に常に気を配り、調理を行うことが重要となります。
(3)保管方法
調理済み品や仕込み品などの食品を保管する際は、その保管する場所や周辺状況から受ける影響により食中毒や食品事故の発生リスクが上昇しないよう注意が必要です。
特に冷蔵庫・冷凍庫内では、限られたスペースの中で調理済み品やサラダ等の無加熱提供品などの清潔に扱うべき食材と、生卵、生肉、生魚、洗浄前の野菜等の汚染源となる食材を保管しなければなりません。
汚染源になり得る食材には、その表面に食材特有の食中毒菌が付着している場合があり、上部に保管されていると重力や出し入れの際に落下し、下部に保管された食材を汚染するリスクがあります。そのため、これらを分け、清潔に扱うべき食材は上部に、汚染源となる食材を下部に保管することをお勧めします。
3.調理器具の衛生管理
調理器具は直接食材に接する機会が多く、その接触により微生物汚染や異物混入の原因となることがあります。調理器具を要因とする汚染を防止するために気を付けるべきポイントを、「取扱い」と「洗浄・消毒」に分けて解説します。
(1)調理器具の取扱い
調理器具で重要なのは、使用する前にその衛生状態や破損の有無等の状態を確認することです。特にホイッパーや缶切りなどはその形状から、洗浄機などでは汚れを落としきることが難しいものとなります。ホイッパーは持ち手の根元が、缶切りは缶を切る刃の内側がそれぞれ汚れの溜まりやすい場所となります。また、厨房でよく使う包丁やザル、揚げ網は使用による破損が起きやすく、包丁は刃の先端が、ザルや揚げ網は保管中に接地する箇所が破損する可能性が高い傾向にあります。この汚れや破片が調理中に食材に落下し、そのまま気づかずに料理を提供してしまうと異物混入クレームにつながります。このように調理器具を使用する際は完全なものだと先入観にとらわれず、使用前に一度、自身の目で汚れや破損が無いか確認する習慣が必要になります。
また、生肉や生魚などの汚染源となる食材を扱う調理器具と、サラダやチーズなどの未加熱調理品を扱う調理器具は、その用途に応じて専用のものを用意すると汚染を予防することができます。使用の都度、洗浄を行う事も、この調理器具を介した汚染の予防には効果的ではありますが、日々の調理や提供の忙しい合間の洗浄で、常に清潔な状態を維持することは難しいため、元から用途に応じた使い分けをルール化することが望まれます。
これらの調理器具の取扱いによる汚染防止のためには、調理器具の選定を工夫することで、その助けになることがあります。例えばザルをパンチングボウルにするなど洗いやすく、破損しにくい調理器具を選定することや、色違いのまな板や包丁を用意して用途別の使用を目で見て確認しやすくすることなど、衛生管理を意識をせず自然にできる環境を作ることで、調理に集中できる環境を作ることができます。
(2)調理器具の洗浄・消毒
調理器具は使用の都度、油汚れや食材残渣が付き、また保管中にも埃汚れが付着します。これらの汚れを残したままにすると、汚れを元に害虫獣の誘引や細菌の繁殖を招くことになり、調理器具を使用した際の微生物汚染や、害虫獣の虫体や糞などの異物混入の原因になり得るため、調理器具の使用後は汚れを残さぬよう洗浄・殺菌することが必要です。
器具洗浄に関して大量調理施設衛生管理マニュアルでは、「器具、容器等の使用後は、全面を流水で洗浄し、さらに80℃、5分間以上の加熱又はこれと同等の効果を有する方法で十分殺菌した後、乾燥させ、清潔な保管庫を用いるなどして衛生的に保管すること。」と定められており、洗浄と洗浄後の殺菌はそれぞれ重要な作業です。
洗浄では洗い残しがないよう、分解できる調理器具であれば分解し、汚れに適した洗剤と洗浄器具を選択して洗浄をしてください。殺菌の方法は、熱湯をかける方法のほか、塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)で消毒する方法でも代替が可能です。これらの洗浄・殺菌工程は食器洗浄機で一連の流れとして行うことが可能ですので、厨房のスペースが許せば、導入することで大幅に手間を省略することが可能となります。
4.従業員の衛生管理
従業員を介した食材の汚染による食中毒は毎年数多く発生しています。従業員が原因となる食中毒は、お客様はもちろん、その原因となった従業員も、その後働きづらくなり退職してしまうケースが多くあります。食中毒を発生させないことはもちろん、従業員の幸せのためにも、従業員の衛生管理はとても重要です。ここでは従業員が行うべき衛生管理について、「手洗い」と「体調管理」に注目して、ご紹介します。
(1)正しい手洗い
衛生の基本である手洗い、この手洗いが不十分である場合、従業員の手を介して取り扱う食材もまた不衛生な状態となります。人間の手には多くの菌が存在しており、その中には食中毒を引き起こす菌も生息しています。手洗いはこれら多くの菌をきわめて低い菌数になるまで洗い落とす重要な工程です。ノロウイルスや黄色ブドウ球菌を原因とする食中毒事故の多くは不完全な手洗いによるものです。こうした事故を引き起こさない為にも、手洗いは重要で、確実に従業員には実行させる必要があります。
(2)体調管理
従業員自身の体調も、安全な料理を提供するうえでは欠かせない項目です。
下痢や、発熱の症状がある場合や、ご家族や同居人の体調が悪い場合などは特に注意が必要です。これらの症状は自身、又は周りで食中毒を発症している可能性が考えられ、その状態で従事すると食材に食中毒菌が付着しますし、同じ厨房で働く他の従事者にも感染を広めてしまう危険があります。日々、従業員は自身や自身の身近な人の体調を確認し、異変があった際は必ず、出勤前に上司に相談し、出勤するべきか否か、又は調理従事以外の仕事を担当するか相談をすることをルールにすることをお勧めします。
症状がない場合であっても、健康保菌者である場合は注意が必要です。健康保菌者であるかどうかは、定期的な検便検査の実施により確認することができます。
定期的な検便検査の実施と共に、日々の体調の確認により、従業員を介した食中毒発生の予防の実施をお勧めします。
5.まとめ
今回は厨房の衛生管理を行う上で重要な3つのポイントとして、「食材」、「調理器具」、「従業員」についてご紹介しました。
これはあくまで衛生管理として必要なことの一部に過ぎず、今回ご紹介した内容以外にも気を付けるべき衛生管理のポイントはまだまだあります。衛生管理は管理するのが難しい反面、お客様からは「あたりまえ」の事であり、万が一食中毒事故を起こすと会社の信用失墜、場合によっては倒産にもつながる可能性もあります。個人の経験に頼らず、科学的な観点から、安全で安心な料理を提供できる厨房環境を目指していきましょう。
6.問題発生前にプロの視点でチェックを実施しましょう。
BMLフード・サイエンスでは、実際に調理を行っている厨房にお伺いし、現状の衛生状態を調査するサービスを行っています。実際の厨房を見て危険なポイントの発見からその改善まで総合的にサポートを行います。衛生点検以外にも、当社では衛生管理に関する手順書(SOP)などのマニュアル作成や、食材の安全性を確認するための微生物検査、クレーム品の異物検査、従業員の健康を確認する腸内細菌検査など、様々なサービスを提供しています。
調理従事者の皆さまや、店舗管理を行う本部の方のお悩みに合わせて、オーダーメイドで対応していますので、食品衛生に関するお悩みがあればお気軽にご相談ください。
詳しくは、「食品コンサル」のページをご覧ください。
<参考情報>大量調理施設衛生管理マニュアル - 厚生労働省