1. TOP
  2. 最新記事
  3. コラム
  4. 検便の陽性率上昇が示す食中毒発生の兆候

検便の陽性率上昇が示す食中毒発生の兆候

検便の陽性率上昇が示す食中毒発生の兆候

 食中毒を予防する為に重要な事のひとつとして、食品取扱従事者の健康管理があり、健康管理の手法の一つとして検便検査があります。
 検便検査では健康保菌者とよばれる、自分自身には自覚症状がないにも関わらず、食中毒菌を排出している方を見つけることができます。

(参考コラム)
 食品取扱従事者の検便検査は義務?~必要な理由と検査の流れを解説

今回は弊社検便検査事業のなかで得られた傾向についてまとめました。


1.検便検査とは

 弊社では、飲食店を営む事業者や、コントラクトサービス(給食)事業者、食品製造やホテルなど、食に関わる多くのお客様より検体をお預かりし、検便検査を実施しています。
 メインラボの埼玉を始め、札幌、福岡と、全国で検査が可能な体制を整えており、その検査検体数は国内最大級となっています。

腸内細菌検査のサービスはこちら

BMLフード・サイエンスは食品・商品を取り扱う事業者様にを対象に検査、品質管理の仕組みづくり、認証取得支援などの総合的なサービスを提供しています。

腸内細菌検査のサービス


2.検便陽性率の特徴

 弊社検便検査事業の中で、今年は特徴的な検査結果の傾向が見られています。
 サルモネラ属菌の検便陽性率が例年に比べて高い状態が確認されています。

(1)サルモネラ属菌の陽性率推移


 サルモネラ属菌の陽性率は通常、8月頃をピークとして、春から夏にかけて上昇し、秋から冬は徐々に低下傾向になり、1月に最も低い値を示します。2022年度は例年と同様に8月をピークにした推移を示していました。
 しかし、2023年度の推移では、8月に比べ9月の陽性率がさらに高くなりました。10月になり陽性率は8月並みに落ち着きましたが、例年に比べると直近3か月(8~10月)平均は前年比146%と、特に高い陽性率を示しています。

サルモネラの陽性率推移

【図①】サルモネラの陽性率推移


(2)腸管出血性大腸菌の陽性率推移


 一方、検便検査ではサルモネラ属菌と同様に腸管出血性大腸菌の保菌状況を調べていますが、こちらは従来の陽性率と大きな差は見られませんでした。直近3か月(8~10月)平均は前年比90%と低い値を示しています。

腸管出血性大腸菌陽性率の月別推移

【図②】腸管出血性大腸菌陽性率の月別推移


3.陽性率の増加が示す可能性


(1)健康保菌者が増えている?


 これらのデータによって示唆されるのは、調理従事者内でサルモネラの健康保菌者が増えているということです。
 一方、厚生労働省の「食中毒統計資料」では病因物質別の食中毒患者数が発表されていますが、こちらで2022年と2023年のサルモネラ食中毒の発生状況を比較したところ、現時点での届け出においては2022年に比較して2023年に特にサルモネラ食中毒が大きく流行している状況は伺えませんでした。しかしながら8月に患者数が大きく伸びているため、9月以降の患者数が今後の届け出によって増えてくるかどうか注視が必要となります。

サルモネラ属菌を病因物質とする食中毒患者数

【図③】サルモネラ属菌を病因物質とする食中毒患者数

 現時点の届け出においては昨年比で大きく食中毒患者数が伸びている様子が伺えないことについて、考えられる背景はいくつかあります。
 まず、サルモネラ食中毒の原因がヒト由来に限らず、食品由来が多く含まれるということです。検便での検査結果が示す通り健康保菌者が例年よりも多いものの、それにも増して食品由来の食中毒の数字が抑えられているという可能性が考えられます。
 またサルモネラ食中毒は一般的に最低発症菌数が100万〜1,000万個と言われており、10個からでも発症すると言われている腸管出血性大腸菌などに比べ、発症に至るために必要な菌量が多い特徴があります(サルモネラの一種であるサルモネラ・エンテリティディスは少量の菌量で発症するため例外となります)。このため食品が健康保菌者による接触により汚染されたとしても、適切な温度で保管されたり、直ぐに喫食された場合には発症に繋がりにくくなります。この特徴によって健康保菌者の増加が食中毒患者数に直結していない可能性が考えられます。


(2)背景として考えられること


 では、なぜ健康保菌者が増えているのでしょうか?
 以下にいくつか考えられる可能性を挙げましたが、どれも断定するには至りません。以下の要素のうちいくつかの要素が重なって、あるいは以下に挙げられていない未知の要素が重なっていることも考えられます。


①食事の機会の多様化


 2023年5月から新型コロナウイルス感染症の位置づけが従来の2類相当から5類に緩和され、人流が回復しています。これに伴って、様々なシーンで食事をする機会が広がっています。異なる集団に属する人が同じ食品を喫食する機会が増えたことがきっかけでサルモネラの感染が広がっている可能性が考えられます。


②鶏肉の輸入量の増加


 もう一つ背景として考えられるのは、サルモネラ食中毒の原因食品として代表格である鶏肉の汚染です。2022年~2023年の鳥インフルエンザ流行は過去最悪の状況で、1,000万羽を超える殺処分が発生しました。そのため、鶏肉の国内需要量を賄うために輸入量が増加傾向にあります。財務省の「貿易統計」によると2023年5月~8月のブロイラー等の輸入対前年比は平均して113.2%と10%以上増加傾向にあります。これが何かしら影響を及ぼしている可能性が考えられます。
 ただし、食品安全委員会による「食品健康影響評価のためのリスクプロファイル~鶏肉におけるサルモネラ属菌~」によると、1993年~2006年に行われた調査では輸入鶏肉は国産鶏肉と比較してサルモネラ陽性率は低く、一概に輸入鶏肉の汚染率が高い訳ではないことは留意する必要が有ります。


③夏季の気温推移の影響


 今夏は例年に比べて気温の高い状態が続きました。気象庁の「東京(東京都) 日平均気温の月平均値(℃)」で比較すると、2023年6月~9月の平均気温は2018年~2022年の同期間に比べ1.8℃も高く、記録的な猛暑となりました。夏場の例年よりも高い気温が、サルモネラにとって増殖・生残しやすい環境を作ることにつながった可能性も考えられます。


④低病原性のサルモネラ菌種の増加


 ひとくちにサルモネラと呼んでいますが、サルモネラは2,000種類以上の血清型に細分することができます。血清型によってその病原性は様々で、病原性のほとんどないものから、急性胃腸炎を起こすものまであります。
 検便検査においてはこれらの詳細な分類までの検査は行っていないため、サルモネラ食中毒患者が増加していないことも考えると、病原性の低いサルモネラ属菌が流行している可能性も考えられます。

4.サルモネラ属菌の特徴と予防方法

 サルモネラ属菌が食品に付着したとしても、適切な管理が行われ、すぐに喫食されれば食中毒に至る可能性は低いということを前述しましたが、サルモネラが付着した食品がすぐに喫食されず、至適温度帯で長時間放置された場合には、サルモネラは食品中で増殖し食中毒を引き起こす可能性が高まります。前述の検便検査の結果から、調理従事者内でサルモネラの健康保菌者が増えており、より一層食材の取扱いに気を付ける必要が高まっていることが推察されます。
 ここでは改めてサルモネラとは何なのか、またサルモネラ食中毒を発生させないためにどのような対策をすれば良いのかをご紹介します。


サルモネラ食中毒の予防方法


 サルモネラ食中毒の予防方法として、特に有効なものは「食材に付けない」ことや「食材を適切な温度で保管する」こと、そして「加熱を十分に行う」ことです。

 「食材に付けない」こととしては、調理を始める前や生の食肉等を触った後に手洗いや消毒を行うことが重要です。またネズミやゴキブリ、ハエなどの有害生物が媒介することもあるため、適切に駆除や清掃を行って、これらが食材に寄り付かないようにすることも必要です。

 「食材を適切な温度で保管する」方法としては、冷蔵庫や冷凍庫、温蔵庫等で食材を保管することとなります。サルモネラ属菌の生育条件は5.2℃〜46.2℃ですので、この範囲内に食材が晒される時間を短くするよう、保管温度には注意をしましょう。特に汚染が疑われる生の鶏肉やレバーなどは、チルド庫にて保管するようにしましょう。

 サルモネラ属菌は調理における通常の加熱で死滅するため「加熱を十分に行う」ことで食中毒を予防できます。中心温度75℃以上1分間の加熱によって死滅させることができますので、食材を加熱するときには中心温度計等を用いて温度を計測するか、それが難しい場合には加熱後の焼き色や、肉汁が透明になっていることなどで食事に火が通っているかを確認してから提供してください。


5.まとめ

 今回は弊社の検便検査の結果データを元に、食品関連従事者の中にサルモネラの健康保菌者の割合が例年に比べて増えている可能性をお伝えしました。

  従業員に起因したサルモネラ食中毒が発生することが無いよう、調理の際には手洗い・消毒の徹底や、食材の適切な保管、十分な食材への加熱を行いましょう。
 また、そもそも検便検査を適切に行うことによって健康保菌者を確認し、排菌している間は調理に従事させないことも重要です。

 BMLフード・サイエンスでは、従業員の検便検査を始め、検便陽性時の対応や手洗い、食材保管、加熱等の仕組み構築から教育のお手伝いまで、食品業界向けの総合コンサルティングを行っております。
 食品衛生に関するお悩みをお持ちの方は、ぜひご相談ください。

 弊社の検便検査事業について詳しくは、「腸内細菌検査」のページをご覧ください。
BMLフード・サイエンスのサービスはこちら

BMLフード・サイエンスは食品・商品を取り扱う事業者様にを対象に検査、品質管理の仕組みづくり、認証取得支援などの総合的なサービスを提供しています。

BMLフード・サイエンスのサービス

BMLフード・サイエンス腸内細菌検査

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コンサルティング、認証取得支援・適合証明、検査サービスに関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。

資料ダウンロード

お役立ち資料ダウンロード

食品衛生および品質管理に関するトピックを紹介するお役立ち資料を提供しています。

依頼・お問い合わせ

当社サービスに関する依頼・お問い合わせ

コンサルティング、認証取得支援・適合証明、検査サービスに関する幅広いご相談を承ります。

セミナーバナー