くるみによる食物アレルギーの症例数が増えていることを踏まえ、2023年3月9日、食品表示基準が改正され、アレルギー表示が義務付けられた品目(特定原材料)に「くるみ」が追加されました。
この記事では、アレルギー表示の対象品目、くるみがアレルギー義務化になった背景や食品事業者に求められる今後の対応について、わかりやすく解説します。
関連コラム:アレルギー推奨表示対象品目の見直しについて ~マカダミアナッツの追加とまつたけの削除~
2024年3月28日に「食品表示基準について」が改正され、アレルギー推奨表示対象品目(特定原材料に準ずるもの)にマカダミアナッツが新たに追加、これまで対象品目であったまつたけが削除されることになりました。
1.アレルギー表示の対象品目
容器包装された食品には、アレルギー表示義務があります。外食のメニューや対面販売、プライスカードのアレルギー表示は義務ではありませんが、表示する場合には正しく表示する必要があります。
表示の対象となるアレルゲンは、食品表示基準で表示を義務付けるもの(特定原材料)と通知で表示を推奨するもの(特定原材料に準ずるもの)の2種類があります。
(1)義務表示(8品目)
発症数や重篤度から特に表示の必要性が高い食品として、アレルギー表示が義務付けられている原材料を特定原材料といいます。2023年3月9日に「くるみ」のアレルギー表示が義務化され、特定原材料が7品目から8品目になりました。
(対象品目)
えび、かに、くるみ、小麦、そば、卵、乳、落花生
- 卵、乳、小麦 →症例数が多い
- そば、落花生 →症状が重篤
- えび、かに →成人期での新規発症や誤食が多い
- くるみ →近年、木の実類の中でも症例数が増加
これらの理由により表示が義務付けられています。
※くるみのアレルギー表示は、2025年3月31日までは猶予期間となります。
(2)推奨表示(20品目)
食物アレルギー症状を引き起こすことが明らかになった食品のうち、症例数や重篤な症状が継続して相当数みられるが、特定原材料に比べると少ないものを「特定原材料に準ずるもの」と定め、通知で可能な限り表示するよう努めることと推奨されています。
(対象品目)
アーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン
これまでくるみは特定原材料に準ずるものに含まれていましたが、特定原材料に追加となったため、特定原材料に準ずるものは21品目から20品目になりました。
2.くるみがアレルギー表示義務化された背景
(1)「木の実類(ナッツ類)」のアレルギー症例が増加
消費者庁が3年毎に実施する「即時型食物アレルギーによる健康被害に関する全国実態調査」において、前回2018年度の調査まで原因食物の上位3品目は鶏卵・牛乳・小麦でしたが、今回2021年度の調査では木の実類の割合が13.5%(819例)に増加し、第3位となりました。
(2)木の実類の中では「くるみ」が1位
木の実類の内訳としては、くるみが463例(木の実類の56.5%)で最も多く、カシューナッツが174例(木の実類の21.2%)、マカダミアナッツ45例(木の実類の5.5%)が上位3品目でした。症例数全体に対するくるみの割合は7.6%で、落花生の6.1%より上位となっています。2018年度の全国実態調査でもくるみの症例数が増加しており、これらの増加傾向が一時的な現象ではないことから、特定原材料として新たにくるみが追加されることになりました。
木の実類のアレルギー症例数が増加した理由として、くるみの年間消費量、カシューナッツ及びアーモンドの年間輸入量が増加しており、国内消費量の増加が要因の一つと考えられています。
令和3年度 食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業 報告書
3.その他の木の実類の取扱いについて
2023年12月13日現在
(1)カシューナッツ
特定原材料に準ずるカシューナッツについては、木の実類の中でくるみに次いで症例数の増加等が認められることから、可能な限り表示することをより一層努めるよう呼び掛けています。現在、特定原材料への追加に向けた検討がされており、公定検査法の開発や次回の全国実態調査の結果を踏まえ、2025年度以降に食品表示基準の改正に向けた手続きを行う予定です。
(2)ペカンナッツ
くるみと同じクルミ科に属するペカンナッツは、くるみほどの症例数は認められていませんが、くるみと交差反応性が認められる場合があることから、ペカンナッツを原材料とする加工食品及びペカンナッツに由来する添加物を含む食品を取扱う食品関連事業者等においては、一括表示枠外に「本品はペカンナッツを含んでいます。くるみアレルギーの方はお控えください。」等の注意喚起表示を行うことが望ましいとされています。
(3)マカダミアナッツ
現在、特定原材料等28品目に含まれていませんが、特定原材料に準ずるものである「アーモンド」と同程度の症例数が報告されています。 消費者庁の「食物アレルギー表示に関するアドバイザー会議」において、2023年度中に「食品表示基準について」を改正し、マカダミアナッツを特定原材料に準ずるものへ追加することが決まりました。改正後、食品関連事業者等は可能な限り速やかに表示の見直しを行うこととされています。
4.義務化に向けた今後の対応
(1)経過措置期間は2025年3月31日まで
食品事業者が表示の切替えを行うための経過措置期間が設けられており、次の食品の表示は、改正前の規定により表示することができます。
- 2025年3月31日までに製造・加工・輸入される加工食品(業務用加工食品を除く)
- 2025年3月31日までに販売される業務用加工食品
これまでアレルゲンとして「くるみ」を表示していなかった食品事業者は、次の対応等により製品に含まれるアレルゲンを把握し、速やかに表示の切り替えを行うことが望ましいです。
- 原材料・製造方法の再確認
- 原材料段階における管理に関する仕入れ先への再確認
- 必要に応じ、アレルゲン検査による確認
(2)くるみアレルギーへの表示対策は出来ていますか?
食品事業者の皆様は、くるみアレルギー義務化への表示対策ができているかチェックしてみてください。
①包材のアレルギー表示を見直していますか?- 各原料規格書において、くるみアレルギーの有無を確認できていますか?
- くるみアレルギーの含有が認められる場合は、包材の切り替えが計画的に進められていますか?
②輸入品の表示は大丈夫ですか?
- 海外では、木の実類のアレルギー表示としてナッツ類(Tree nuts)等と表記されることが多いため、それらに対してくるみアレルギーの有無を確認できていますか?
③飲食店のアレルギー表示は切り替えていますか?
- メニューのアレルギー表示や従業員向けのアレルギー一覧は、特定原材料が7品目仕様のままになっていませんか?
④プライスカードのアレルギー対象品目が混在していませんか?
- 義務表示のみ記載している場合、くるみを除く7品目とくるみを含む8品目が混在していませんか?
5.まとめ
アレルギー表示の欠落はリコール(自主回収)の届出対象となり、回収には多額の費用がかかるだけでなく、社会的な信頼を失うことにもつながります。また最悪の場合、消費者の健康だけでなく命を脅かしてしまう恐れがあります。
食品表示は、食の安全・安心を守り、食品事業者と消費者をつなぐ大切な情報の架け橋です。消費者が食品を選ぶ際に食品の内容を正しく理解し、安全に食品を召し上がることができるよう、法令を遵守した食品表示を行いましょう。
BMLフード・サイエンスでは、食品表示の点検・作成だけでなく、食品表示に関するコンサルティングや講習会なども行っております。
食品表示に関するお悩みをお持ちの方は、ぜひご相談ください。
詳しくは、「食品表示関連業務」のページをご覧ください。
また当社では、くるみを含む各種アレルゲン検査も行っています。
- 製品に食物アレルゲンが混入していないか確認したい
- 製造ラインでコンタミネーションがないか洗浄確認をしたい
- 食品表示に誤りがないか確認したい
詳しくは、「アレルゲン検査」のページをご覧ください。